第115回『その掌には』→落選

「ね、ねえ、そこの、ロボットさん……」

 ボクが振り向くと、瀕死の少女が横たわっていた。

「ダイジョウブ? キュウキュウシャ、ヨビマスカ?」

「病院は、いいの。もう私、ダメだから……」

 少女は弱々しくボクに手を差し伸べる。

「お願い、握って……」


 SZ300。それが工業用ロボットであるボクに付けられた名前。

 指の関節が逆側にも曲がるため、L側でもR側でも物を優しく握ることができる。


「ありがとう……」

 ボクがL側で少女の手を握ると、彼女は安堵の表情を見せた。

「アタタカイ」

 手に設置された温度センサーが値の上昇を感知した瞬間、少女は全身から青白い光を放つ。

「ばいばい、優しいロボットさん……」

 轟音と共に、少女の体は消滅した。


「おい、SZ300! どうしてL側で握らないんだ!?」

 今日も親方の怒鳴り声が工場に響く。

 あの日からボクは、L側で物を握ったことはない。

「ゴメンナサイ。チョウシガ、ワルクテ」

「このポンコツが。修理する金もねえし、どうすっかな……」

 親方がその場を去ると、ボクはそっとL側に指を丸める。そうすると、あの時の少女のぬくもりを感じられるような気がした。

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