第79話



「《聖モロキ》について?」


 オルの問いにアマリアが首を傾げながらそう言った。


 《冒険者ギルド》の資料館に行った夜、救貧院で食事を済ませたあとのことだ。

 お客なのだから座っていなさいというカサリナの言葉に甘えて、オルは食後のお茶を啜っていた。

 すでに、ルクレシアはほかの子どもたちと一緒に横になって鼾をかいていたし、リザルはカサリナの手伝いに勤しんでいた。


「――ああ、八十年前の《聖モロキ》の探索の資料を見たのね?」

「ええ。ですが、《聖モロキ》――モロキ・イェマレンという人物については、今一つわかりませんでしたから」


 そうかもしれないわね、と呟いたアマリアはその豊かな胸を持ち上げるようにして、腕を組んだ。


「《聖モロキ》は、かつてデモニアクスの師だった人物で、《義侠神》の敬虔な信徒だったと言われているわ。弱者と市民、そして《冒険者》を守る守護聖人ね」

「そうなのですか?」

「ええ、あまり古い聖人ではないし、《聖モロキ》はいくつも伝説を持っているの。人族の手に余る事態には、必ず現れる聖人である、と。実際に、《聖モロキ》によるものだと記録されている探索資料がいくつか残されているわ。それらはすべて、《聖モロキ》による探索、と言われてはいるけれど、怪談に近いわね」

「怪談、ですか?」


 アマリアは、ふふっと微笑をこぼした。


「だって、一番最近の資料は三十年前だし、一番古いものは百年以上前よ。確かに、百年前だったら、ご存命だったかもしれないけれど、その当時でも百歳近い齢のはず。そんなお年寄りが探索に出れるわけもないし、まして当時の屈強な《冒険者》たちの手に余る案件を片付けられるとは思えないでしょう?」

「……ですよね……ふつうは」


 アマリアは、オルの呟きには同意せずに微笑を浮かべて面白がるような、そして、素敵だと言わんばかりの声音で語る。


「ただし実際に、《聖モロキ》による探索であると報告されているものは、すべて一癖ありそうなものばかりだし、実際に《冒険者》が命を落としているものが多い。……誰が、そうし出したのかはわからないけれど、きっと《聖モロキ》の加護に力を持たせておきたい人たちが、自分の手柄を彼に捧げたのではないか、と私は考えているわ」


 近世の聖人のうちでどのように殉教したか伝えられていないのは、《聖モロキ》ぐらいだから。

 彼女はそう言って、また微笑した。


 元・《神官》である彼女が現実的なのか、それとも、オルがロマンチストなのか。

 しかし、オルレイウスは故国のことについて語るわけにはいかないし、またおそらくはアマリアも確信しているのだから仕方がない。

 議論を挑んでも平行線に終わるだろうと考えたオルは、次の問いに移行する。


「ちなみに、《聖モロキ》の探索、その八十年前の《アブノバ鉱山》探検の報告書にあった端書きを、アマリアさんはどう思われますか?」

「うん? ……ああ! 〈湖〉という言葉ね? ……私もその端書きは見たけど……」


 アマリアの目はそれが重要な情報だとは思えないと、訴えていた。


「あれは、明らかに後から書き足されたものだし、貯水池はあっても、あの辺りに湖は存在しないわ。水棲の《魔獣モンストゥルム》なんかの出現例も皆無だし」

「でも、気になりませんか? 八十年前のも、十六年前のものも、〈行方不明者〉となっていました。彼らはどこに消えたのでしょうか?」

「どこかに湖があって、水底にでも沈んでいる、と?」


 頷くオルに、アマリアは首を横に振った。


「水棲の《魔獣》どころか、もともと、あの地域には草木一本生えていなかったの。昔の鉱山監督官が水道を引くまで、水気なんてものは無かったのよ」

「でも、今は水道が通っているわけですよね?」


 また、彼女は首を振る。


「水道から貯水池を経て、鉱山掘削に利用された水は、すべて西へと向かう水路へ流されるわ。それに、鉱山の瘴毒を含んだ水には《魔獣》も寄り付かないし、貯水池は水道管理官によって保全されているの。《魔獣》の巣になる余地はないわ」


 オルは腕を組んで考え込む。

 ここまで頑なに反論されるとは考えていなかったのだ。


「ちなみに、アマリアさんは、今回と八十年前、そして六十年前の原因について、どのように考えているのですか?」


 そこで彼女は、また巨乳を揺らして腕を組む。


「……ずっと考えていたのだけど、群れる《魔獣》ではないと思うの」


 それにはオルも頷いた。

 群れるような《魔獣》が坑道の内部に巣を作っているとしても餌がなくなったら外に出て来るはずだ。

 《アブノバ鉱山》が休鉱になって以来、そういう報告はなさそうだった。


 それに、狭い坑道内にどれだけの数の《魔獣》が棲みつくことができるだろうか、ともオルは考える。

 入った人間の痕跡をすべて平らげるには、どれほどの数の《魔獣》が必要なのか。

 あるいは、それだけの《魔獣》がいたとしてまったく人目につかないことなどありえるのか、とも。


「たとえば、それこそ人を丸飲みにできるような個体なら、当然、我々は死者を弔うことができないわ」

「ですが、そのような《魔獣》が坑道の奥に留まって出て来ないというのも解せません」

「そうなのよ。だから、《魔獣》ではない。とすると、《魔獣》よりも知性的な《妖獣種レムレース》という線が濃いと思うわ」


 《妖獣種》。

 オルは一度、《妖獣種》の王と闘っている。

 あの、《エンヘン・ディナ》ぐらいの強敵だったならばどうしようと思いながら、オルはまた別のことを考えていた。


「《妖獣》の出現は稀だと聞いていますが、《アブノバ鉱山》には出るものなのでしょうか?」

「そこなのよ、ね」


 アマリアはまた少し考えるように巨乳を揺らした。


「……ちなみに、《魔物種オルカ》という可能性はないのですか?」


 北方を徘徊している間もオルはまったく《魔物》と遭遇したことがなかった。

 その理由は、当人にしてみても定かではない。


「無いと思うわ? オルレイウスは、《魔物》を見たことがないの?」


 オルは素直に頷いた。

 アマリアは納得の表情を浮かべ、説明する。


「《魔物》というものは《魔獣》よりも弱いというのが、一般的な事実なの。理由は、知性を見せないから」

「知性を見せない? 知性が無い、ということでしょうか?」


 アマリアは首を横に振った。


「《巨人の王》については、――」

「ふたりとも?」


 戸外で洗い物を終えたらしいカサリナが、いつのまにか卓に着くオルとアマリアを腕を組んで見下ろしていた。


「もう、寝なさい」

「ああ、もう遅いわね。また、今度にしましょうか」


 そう言うアマリアに、オルは頷き返した。


……そうだ、《魔物》とは、《巨人の王》の死体から産まれたものだった、とオルは幼いころの記憶を呼び覚ました。

 そして、《巨人の王》とは、すなわち《巨神族タイタンの王》だ、とニコラウスの手記に記されていた。


 巨人の死体から万物が産まれたという説話は、オルの前世のどこかしらの地域の神話の中にもあったはず。

 だが、実際に神々が触れ得る形で存在しているこの世界では、かなり趣きが異なるだろうとオルは考える。


 《巨神族の王》と、その死体から産まれた《魔物》。

 オルレイウスは、それらに対して少しだけ恐怖を抱きながら眠りに落ちた。



 翌日もまた、二手に分かれることになった。

 パーティーとしては旅の荷を買い揃えなければならなかったが、オルはひとりで資料館に行くことを望んだからだ。


 ハギルからは、リザルとルクレシアの手綱を取るまで離れてはいけないと言われていたが、オルはその辺りについて若干諦めていた。

 リザルが戦闘に対して引け腰なのは火を見るよりも明らかだったが、それは実際に探索に出てみないとわからない部分が多い。

 それ以外の対人恐怖症などに関しても、パーティーメンバーが揃ってからでないとオルにはなんとも言えなかった。


 オルにとってより問題だったのはルクレシアの傍若無人な態度だ。

 少人数で長期間を過ごす《冒険者》にとって、彼女の人を食った態度は大きな危険だった。


 しかし、対処のしようがオルにはわからなかった。

 ハギルが連れて来る面子の心が海のように広いことを祈ることぐらいしか、オルレイウスにできることはないように思えた。

 だから、買い出しはアマリアとほかふたりに任せて、オルはひとり今回の探索の解決策を探ろうと考えていた。


 だが。


「おい、陰毛。ここにゃ、エロい本の一個も置いてねえのか?」


 静かな資料館にルクレシアの不自然に大きな声が轟いた。

 なぜか、彼女はオルについて来た。


 資料の通覧を手伝うでもなく、ルクレシアはひたすらオルに向かって喋りかける。

 昨日、彼女の相手をしていた受付の男性は今日も受付に座っていたのだが、ルクレシアが資料館の入口に姿を見せた瞬間に血の気の引いた顔になり、受付の後ろの部屋に跳び込んで二度と出て来なかった。

 彼は昨日、一両日中、彼女に難癖をつけられ、どうでもいい詮索をされ続けていたのだから仕方がないとオルは思った。


 しかし、そうなってしまうとルクレシアの相手は完全にオルの仕事になった。


 資料館に来るまでは、それこそたくさん彼女の標的がいたので良かった。

 それはそれで厄介だったが、短槍を大っぴらに振り回すルクレシアの挑発に乗る者は少なく、諍いが起こりそうになっても彼女の言動を聞けば大抵の者は呆れ顔で彼女の前を素通りした。

 ルクレシアの言葉は相手を怒らせはしたが、無差別ゆえに誰の沸点にも届かなかった。


 しかしながら、この場にはオルレイウスひとりだ。

 おあつらえ向きに、今日も資料館にはほかの《冒険者》はいないように見える。


「なあ、なあ、お前のうえのけは赤みがかってっけど、シモのほうも赤えのか? おまえの親父とお袋のも赤かったのか? おまえ、《グリア人》だろ? 《グリア人》のセックスはどんなもんだ? 親父とお袋の××××見たことあんだろ? お盛んだったか? 冷えてたか? オレはオヤジもお袋も知らねえから、わからねえんだよ。あ、そういや、おまえは一日何回ぐれえ××るんだ? ネタはなんだ? やっぱ、姐さんの乳で一発ぐれえは抜い」

「よしてもらえませんか?」

「なんでだ?」

「集中できないんです」

「……じゃあ、おまえの親父はハゲてたか? 毛深いほうだったか? お袋はどうだ? デブってたか? おまえはひょれえけど、親父もお袋も陰毛みてえにひょろかったのか? あ、陰毛っつえばよ、おまえのは縮れてるか? 《グリア人》もやっぱ、陰毛は……」



――セクハラ、そして、パーソナルハラスメントにレイシャルハラスメントのオンパレードだ。

 オルはそんなことを考えながら、密かにため息をついた。


 ルクレシアは道行く人々にも、こんな調子だった。

 特に欠点をあげつらうのが酷い。


 頭髪の薄い男には「おい、頭が裸だぜ」と言い、ふくよかな女には「暑苦しいから、肉脱げよ」などと言う。

 見た目にあまり欠点が明らかでない者たちには、「×××が×××かぃ?」などと、オルには今一つわからないことを言っていたので、卑語かおそらくは猥褻な言葉なのだろう。


 まともに会話さえできない型の人間。

 この三日の間にオルレイウスが彼女に対して下した判決はそれだった。



「なあ、おまえ、×××を×××に突っ込んだことあるか? ねえだろ? 童貞だろ、おまえ?」

「…………」


 オルは無視を決め込んだ。

 決め込んではいたが、オルよりも頭ひとつほど高いところから覗き込むようにして話しかけて来るルクレシアに、ちっとも資料に集中できなかった。


「おい、陰毛ヤロウ。聴いてんのか? おい?」

「…………」


 まったく返事を寄越さないオルに、苛立ったようにルクレシアはさらに体を寄せる。


「おまえ、《優良者》の徒弟なんだろ? オレをヤツの弟子にしろよ」

「……は?」


 なかなか言葉を覚えなかった九官鳥が、急に教えたことのない単語を喋った。

 オルはそんな気分になった。

 思わず振り返れば、オルの鼻先にくっつくぐらいの距離にルクレシアの鼻があった。


「なにを言って? クァルカスは《剣士》ですよ?」

「おまえ、ヤツの徒弟だってのに知らねえのか?」

「は?」


 顔を近づけていたルクレシアが、少し背を逸らして顔面を離した。

 その、やれやれと言わんばかりの表情に、オルは少しだけムッとする。


「おい、陰毛ヤロウ、聴きやがれ。《優良者》は、聴いた話じゃ《冒険者》に要る《技能スキル》に、ひと通り熟達してる」

「……それは、つまり《戦闘系技能》に《工術系技能》や《五官・内臓系技能》も、ということですか?」

「ついでに《雑技系》も、だ。要は、ヤツはその気になりゃ、最高の単独探索者オナニストなんだよ」


 そして、ルクレシアはまたオルに顔を接近させる。


「《槍術》も《ふつうじゃないアンコモン》レベルのはずだ。オレの師匠は姐さんだけだ。だがな、仮親なら問題はねえ。童貞のおまえにはわからねえだろうが、経験人数は多いほうがいいからな」


 初めて知る話だった。

 オルがクァルカスから学ぶべきことはオルが予想していたよりも遥かに多い可能性がある。


「おい、陰毛ヤロウ。おまえなら、どうすりゃ《優良者》をイカせられるか知ってんだろ?」

「なにか、語弊が」


「――どこかで聞いた覚えのある声だと思ったら」


 その声は、ルクレシアの向こう側からオルの耳に届いた。

 オルが、振り返るルクレシアの肩越しに声のほうを見れば、そこには長い黒髪の青年が本棚に手をかけて立っていた。


「《二角獣パイコーン》のルクレアではないか。資料館では静かにしなければいけないだろう?」


 そう言った青年は本棚に突いていた手を離し、ゆっくりとふたりに歩み寄る。


 白銀の短い胸甲と、同じく白銀の手甲。

 その縁には金の意匠が施されていて、胸甲の下の腹を覆っているのは黒い鎖で編まれた鎖帷子。

 腰を守る草摺タシットもまた白銀に輝いていた。


 黒革のぴっちりした下服トラウザーズに、白銀の脛当と黒い長靴ブーツ

 銀色の瞳に鼻筋の通った長身の青年の腰には、長剣ロングソードが黄金に輝く鞘に納められていた。

 その柄に手を預けて、彼は微笑浮かべている。


「ルクレアと共にいるのは、噂の《優良者》の」

「すっこんでろ、暇つぶしの×××でこさえられちまった五男坊。おまえの親父の××××とお前のお袋の××××の絞りカスが口を利くんじゃねえ」


 もの凄い悪口だということはオルにもわかったが、青年はまったく動じていない。


「相変わらず、不思議な言葉を使う女性ひとだ。私には少しもわからないが、貴女の私への嫉妬もわからなくはない。だって」


 そこで、青年は黒い長髪を掻き上げた。


「この、私は世の女性たちに優るほどに美」

「おい、陰毛ヤロウ。いいか、オレに《優良者》のイカせ方を教えやがれ」


 ルクレシアはすでに青年に興味をなくしたようにオルに向かい、すごむ。


「オイ・インモウヤロウ? それが、そこの少年の名かい? この、栄誉あるラインバッグの末裔にして、《最上位冒険者トップ・アルゴノーツ》であるキルス・ヒュセイノフの徒弟でもある、私」

「うるせえな。お呼びじゃねえんだよ、シクストゥス・××××・ラインバッグ」

「ルクレア、私の名を間違えているぞ? 最速で《上級冒険者》となった、この、シクストゥス・ラインバッグの名は、多くの者の耳に聞こえていると思っていたが、養成所で共に学んだルクレアに間違えられるようでは、この、私も……」


 いつも他人を呆れ顔にさせているルクレシアが、呆れ顔になる。

 だが、シクストゥス・ラインバッグと名乗るでもなく名乗った青年は、まだ気持ちよさげに語り続けている。


……しかし、ラインバッグという名にはオルも心当たりがあった。

 千年前の《三英雄》のひとりだ。

 このシクストゥスという青年は、その末裔ということなのだろうか?


「おい、陰毛ヤロウ、話は始まってもいねえ。《優良者》の性感帯よわいとこはどこだ? 教えろ」

「オイ・インモウヤロウくん。やはり君こそが、かの《優良者》、クァルカス・カイト・レインフォート卿の徒弟なのだね?」


 ルクレシアがオルに詰め寄り、シクストゥスが白い歯を見せてオルに微笑みかける。

 オルは、ルクレシアへと首を振り、彼へと頷き返した。


「そんな名前ではないですけ」

「おい! なんでだ?! 陰毛ヤロウ!」

「そうか! この、最速で《最上位冒険者》になる予定の、私、シクストゥス・ラインバッグの名は当然」

「うるせえんだよォッ!!」


 ルクレシアの絶叫が資料館にこだました。

 そして、オルの額に自分の額を付けんばかりにするルクレシアは、ドスの利いた声を出す。


「いいか、陰毛ヤロウ。オレはおまえをこれっぽっちも認めてねえ。リズみてえにお気楽でも、姐さんみてえにお人よしなわけでも、ケイト母ちゃんみてえに底抜けに面倒見がいいわけでもねえからだ」

「この、私は記録にうるさくてね、オイ・インモウヤロウくん。これまでも、いろいろと記録を打ち樹てて来たのだよ。君のように年少の者では知らないのも、無理はないのかもしれないが、たとえば《中級冒険者》へも、この、私は最速で」

「だからァ! おまえ、もう、黙れよ!!」


 振り返って一声怒鳴ったルクレシアが、すぐさまオルに向き直る。

 シクストゥス・ラインバッグは、その間にもなにか言っている。


「おまえひとりが気持ちよくなって、よがってるなんてのは許さねえ。オレを感じさせろよ、陰毛ヤロウ。オレは、おまえの実力かたさも知らねえんだ」

「そこで、この、私、シクストゥス・ラインバッグは、オイ・インモウヤロウくんに決闘を申し込もうと思うのだが、受けてもらえるかな?」

「だから、だま……あん?」


 また振り返って怒鳴り声を上げかけたルクレシアが固まる。


「今、なんて言った?」

「ほほう、この、私の美声を今一度聴きたいというのかね、ルクレア? いいだろう。この、私は記録には少々、うるさくてね。まあ、記録蒐集家とでも言うべきなのだろうか」

「さっさと、言えよ!」

「堪え性がないことだ。……この、私が持っていた最速での《中級冒険者》到達の記録を破った、オイ・インモウヤロウくん。君との決闘を、この、私は望む」


 そう言ったシクストゥス・ラインバッグに、オルは即答する。


「お断りします。あと僕の名前は」


 その時、ルクレシアがオルに向かって吼えた。


「――おまえッ!! タマぁ、ついてん……」


――むにぃっ。


 ルクレシアの右手が、ローブの一枚下にあったオルのもの・・を握っていた。


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