移動

 長い通路だった。真っ直ぐ歩いているのに道の先は常にカーブして見える。通路の壁全体が薄青色にぼんやりと怪しく仄っていた。白衣の男は『医師』と呼ばれていた。さっきガラスの向こうで作業をしていた男だろうか。

 

『それでは、私はここで』

 そういって医師はキトリの肩から手を離した。全く別このことを考えていたキトリは、不意の出来事で少しバランスを崩したが、今度は手前を歩いていた兵士によって支えられた。

『ご苦労だった。感謝する』

 兵士は淡々と言った。音も無く立ち去っていく医師は、どことなく寂しそうにも見えた。何を理由にそう思ったかは解らない。ただ、どうもさっきから気持ちが穏やか過ぎてならない、そうキトリは考えていた。ここはお父さんを殺した敵達の本拠地だというのに。

『ゼロ・ルー。ここだ。入ってくれ』

 ドアの横についていた小さな機械に灯る赤ランプが緑に変わった。

 小気味良い音を立ててドアが左右に割れた。中は薄暗い通路になっていて、その奥に開けた空間があるようだった。肩を押されるようにキトリは通路へと進んだ。

 キンッ……キンッ……

 キトリと兵士が歩く、その数歩前のライトが彼らの歩みに合わせて順順に点いていき、通路はあっという間に先を見通せる明るさになった。驚いて周りを見渡すキトリに兵士は

『センサーとは便利なものだ。人を退化させる利便ではあるがな』

 言葉の意味は良く解らなかった。周囲の確認を装って兵士の顔を覗き見たが、やはりもの悲しげな雰囲気が伝わってくる。穏やか過ぎて疑問に思ってしまう。

 ……ここが本当に軍の施設なの?

 どうしてこんなに静かで、居心地が良くて、帰りたい気持ちが強くならないんだろう。

 通路の壁も青白い光を放っている。とても柔らかい光だった。


 ふっと視界が眩しさを覚える。通路の先の光が、あちらから物凄いスピードで迫ってくるように見えた。それはやがてキトリの全身を包み、眩しさにやられて力の抜けそうな足元を必死でこらえた。少しずつ慣れてきた両目には、今まで見たことの無い沢山の人の姿を映していた。

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