夫から妻への『令』
断末魔にしては華奢な悲鳴が、製鉄場に響いた。カタカタと全身を震わせていたシエラは、やがてぐったりと力を失ってしまった。気を失ってしまったのか、それとも死……
『シエラ! シエラ!!』
ソルマは必死に妻の名を叫んだ。だが、その呼びかけに答える者はいなかった。バドラル兵は剣を収め、羽虫でも叩き潰したかのような表情でその様子を見ていた。ソルマはそんな兵を尻目に、背の傷が痛まぬよう、斜めにうつ伏せた状態でしっかりと体を支え、彼女に覆い被さるように抱きかかえた。彼女の胸から伝わる微かな振動で、まだシエラの命が続いている事を知ったが、これ以上彼女の名を呼び叫ぶような事はしなかった。
『……良い妻を持ったなぁ』
唾を吐くようにソルマに浴びせた言葉の何が面白かったのか、兵は無表情な状態から突然破顔し、これでもかというくらい笑った。
ソルマは妻をしっかりと抱きかかえ、その傷に口を歪めた。夥しい出血だが、致命傷という程でも無い。下を向かせてはいるが、もしかしたら意識はあるかもしれない。そうだとしたら、今私の願う事を伝えなくてはいけない……!
(シエラ、聞こえたなら身動きせず、私の手を握り返せ)
そうして握っていた左手にグッと力を込めた。二度、三度、四度…う゛っ、と嗚咽が漏れた。よし、大丈夫だ。もういい、私はお前に助けられた。今度は私はお前を助ける番だ。
(シエラ、お前に『令』を言う。何があってもお前は周囲に家族以外の者がいなくなるまで、動いても、喋ってもいけない。息も殺せ。聞こえたか。動いても、喋っても、、目も開けるな。死んだフリをするのだ。いいな。この方法しか無いのだ。いいな。シエラ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。)
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