ソルマとシエラ

 キトリの両親は晩御飯の仕度をしていた。キトリを放り出した後、母の采配で不自然さをなくすための準備だった。重なった食器を『三枚』取り出そうとした母の手を父が握って戒めた。その意味にはっ、とし、琴糸がぷつりと切れたように足元から崩れそうになる母を抱きとめ


『泣くな、シエラ』

 キトリの父は小さく、小さく囁いた。

 

 二人分の食事が出来た。それでも彼らのスープには相変わらず野菜は入っておらず、キッチンに置いてある鍋にはニンジンと青菜が沢山余っていた。かちゃ、かちゃ、と皿とスプーンのぶつかる音だけがする食事が始まった。

 

『……あなた』

『何だ』

『どうして、今まで喋ろうとしなかったのです?』

『シエラ、それに私は答えなくてはいけないか』

『いえ、言いたく無いのならいいのです』

 寸刻止まった手が再び動き出す。あまり進まない二人のスプーンは、やがて動きを止めた。

 

『シエラ』

『はい?』

『私は、お前のように強くも、賢くも無い』

 沈黙を嫌うように、キトリの父はテーブルの中央に置かれたパンを手にとる。その言葉を拒絶するかのように母は切り出した。

 

『あなた』

『何だ』

『今日のスープは、どうでした?』

『あぁ、美味しかった。いつも違った味で飽きが来ない』

 母はそれを聞いて、再びスプーンで黄金色の液体をすくっては見るが、そこで遊ばせるだけだった。ぽちゃっ、とスープの中に透明な丸い何かが落ちた。

 

『シエラ』

『……何です?』

『お前も、強くなどは無かった。すまない』

 キトリの母は耐えられなくなりボロボロと涙を零した。


『だが泣くな、シエラ。護ると言ったのは誰だ』

 ……私よ……そう言おうとして口を開くが、軽い痙攣を起こした体が声を出させなかった。ガタッと立ち上がると、そのままキッチンへ走り去っていった。ジャー、という流しにぶつかる水の音が途切れ途切れに聞こえてきた。程なくして水音が止み、顔を布で拭きながら戻ってくる母の姿がキトリの父、ソルマの目に滲むようにぼんやりと映った。

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