第七話「旅のご隠居様と 後編」
「フフフ、久しぶりだな」
「叉丹、貴様は消滅したはずでは!?」
そこに現れたのはあの瑠死符亜団総帥の叉丹だった。
「フ、何故蘇ったかは私にもわからん。まあそれはどうでもいい、そこのじじいを冥土へ送ってほしいとどこぞの側用人に頼まれてもいるし、ついでに貴様もな」
「という事は国境での妖怪は?」
「ああそうだ、お前が邪魔しなければ……だが今度こそ」
「させるか! もう一度お前を倒す!」
「できるかな? いでよ、我が部下達よ!」
叉丹の部下が現れた。
「ふむ、そうやすやすとはいきませんぞ。助さん、格さん、彦右衛門さんと一緒にやつらを懲らしめてやりなさい!」
「「ははっ!」」
「皆、ご隠居様は私が守っておくよ」
突如屋根の上から物凄く大人っぽくて美人の女忍が現れた。
「お銀、来てくれたのですか」
「私はいつもご隠居様のお側にいますよ」
「そうでしたな」
「うりゃあああ!」
「はあっ!」
「せりゃあ!」
一行は次々と敵を倒していった。
「ほう、以前よりも強くなっているな?」
叉丹が感心したかのように言う。
「今まで出会った方々に貰った力は伊達ではない、それより残るは貴様一人だ」
彦右衛門が刀を構えて言うと、
「私も以前と同じだと思うな、これでもくらえ!」
叉丹は妖術で炎を出した。
言ったとおり以前よりも大きい炎だ、だが。
「はあっ!」
彦右衛門は刀でその炎を切り裂き、
「なんだと!?」
「でやあああ!」
叉丹が怯んだ隙をついて近づき、袈裟斬りにした。
「ぐ、ぐあああーー!」
「む、まだ息があるか?」
叉丹は深手を負って息も絶え絶えだ。
「だがもう終わりだ、とどめを」
「え~? だめだよ~せっかく蘇らせたのに~」
「何奴!?」
声のする方を見ると、南蛮人風の少年が宙に浮いていた。
「なんだお前は!?」
彦右衛門が声を上げると、
「え~、なんでもいいじゃん」
「もしや……私を蘇らせたのは貴様か、小僧?」
叉丹がその少年に尋ねる。
「そうだよ。あ、あんた魔王を蘇らせたいんだよね。でもあれはもうアリンコより弱いけどいいの?」
「な、なんだと!? そんなバカな!」
「ホントだよ~。あいつ長いこと寝てたから力無くなっちゃったんだろね、あ、落ち込むことないよ。代わりにあんたを魔王にしてあげるからさ、それ~」
少年が手にしていた杖を振りかざすと、そこから黒い稲妻が放たれた。
「ぐあああーーー!」
叉丹はその黒い稲妻を浴び、
「グオオオオーーー!」
いかにも魔王という感じの姿と化した。
「なんなんだこの展開はーーーー!」
彦右衛門が叉丹を見ながら言う。
「いいじゃんか面白いし、じゃあ、頑張ってね~(笑)」
少年はそう言うと姿を消した。
「くっ、皆様方、早くお逃げください!」
彦右衛門が一行に言う。
「何を言いますか、彦右衛門さんを置いて逃げるわけにはいかんでしょう」
「御三方! 早く、無理にでも御老公様を!」
今度は助三郎達の方を向いて叫ぶと、
「まだ正体ばらしてないんですがのう」
「そんな事言ってる場合ですか!」
「え、御老公様だって!? ははあ!」
見ると城代家老も伊勢屋も侍達もひれ伏している。
「ひれ伏さんでいいからお前達も逃げんかー!」
「少し落ち着きなさい、私に策がありますから」
御老公様が手をかざして言った。
「え?」
「格さん、印籠を」
「はっ!」
御老公様は格さんから印籠を受け取った。
「この印籠はただ悪人に見せつけるだけのものではないのじゃよ」
そう言うと御老公様は印籠を叉丹に向けてかざした。
「……東照大権現様、ご照覧あれ」
なんと印籠の葵の御紋が黄金の光を放ち、その光が叉丹に直撃した。
「グアアアーーーー! ナンダトーーーー!?」
叉丹の体が崩れていった。
「この力は強大な妖かしの者が日ノ本に攻めて来た時の為に、かの天海大僧正が印籠に法力を込めて置いてくれたものなのじゃ。ただし水戸徳川家の血を引く者が生涯一度のみしか使えぬと制約を施しての」
「……もうどう言っていいかわからん」
彦右衛門は頭を抱えていた。
「ぐ、もはやこれまでか」
叉丹は元の姿に戻っていた。
「だが、わが息子が魔王に頼らずとも必ず目的を果たしてくれるであろう」
「なんだと!? そやつはどこにいる!?」
「宇和島だ。だがあやつを止めれるかな? ……いずれ地獄で会おう、ぐふっ!」
そう言って叉丹は消滅した。
「宇和島……」
「へー、この世界にも面白いやつがいるんだね、さあてと、今度はどこへ行こうかな~」
「さて城代家老、伊勢屋。数々の悪行、そして知らなかったとはいえ日ノ本滅亡の片棒を担いだ罪、決して軽くはないぞ!」
「ははあ!」
「この二人を引っ立てい!」
二人は侍達に連れて行かれた。
「彦右衛門さん、宇和島へ行かれるのですな」
「はい、あのようなものが他にいるなら放っておけません」
「私達もついて行きたいのですがの。もう私にはあの力は使えないしのう」
「いえ、お気持ちだけで。では」
「あ、彦右衛門さんちょっと待って。……出ておいで」
お銀がそう言うと、どこからともなく一人の可愛らしい女忍びが出てきた。
「初めまして、わたしは香菜と言います」
その忍び、香菜が膝をついて言う。
「彦右衛門さん、どうかこの娘を私達の代わりに連れて行ってくれないかい?」
お銀が香菜を指して言う。
「え? しかし」
「わたし見た目よりは強いですよ」
香菜が立ち上がってそう言うと、
「私からもお願いします」
御老公様も後に続けて言った。
「……わかりました。では香菜殿、行こうか」
「ええ、あ、わたしの事は呼び捨てでいいですよ」
「わかった、では香菜、行こう」
こうして御老公様一行と別れた彦右衛門は香菜と共に伊予宇和島へと向かった。
「よかったわね。やっと会えて」
お銀が見えなくなった二人を思いながら言う。
「以前聞きましたが、香菜が探していたのは彦右衛門さんだったのですな」
御老公様がお銀に話しかける。
「はい。あの子はずっとあの人を……」
「ふむ。お銀、いずれの時には名代を頼みますぞ」
「はい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます