最終話「念願叶う時 前編」
御老公様一行と別れて宇和島へと向かう彦右衛門と香菜。
ちなみに香菜は忍び装束ではなく、町娘風の格好をしていた。
「あの、彦右衛門さん」
「なんだ?」
「宇和島と言っても広いですけど、どこに敵がいるんでしょうね」
「それは分からんが、とりあえず城下町まで行ってみようと思う」
「わかりました」
と、会話しながら二人は城下町付近まで来た。
すると、
「あら? 彦右衛門さん、あそこで闘牛やってますよ」
「お、そうか。せっかくだし見物していくか」
「はい」
「いやー凄かったですね」
「そうだな、凄い迫力だった」
「でも、もしかすると牛の化け物と戦う事になるかもと思いました」
「出そうかとも思ったが、もういいやと思ってやめたそうだ」
「そうなんですね」
何か意味不明な会話をしながら二人は城下町に着いた。
「さて、もう遅いし宿を探すか」
そう言って宿屋を探したがどこも満員で、やっと空きがあったところも、
「すみませんねえ、あいにく一部屋しか空きはないんですよ」
宿引きの女性が言う。
「そうか……どうしたものか」
「二人一緒でいいじゃないですか」
「しかしだな」
「もー、もうじき夫婦になるんだからいいでしょ」
「な?」
「あ、お客様方そうだったんですか、じゃあ問題ありませんね。ご案内しますのでどうぞ」
宿引きの女性に部屋へ案内された。
「おい」
「いいじゃないですか、その方が都合がいい事もありますよ」
香菜は笑みを浮かべて言った。
そして夕飯を取り、
「じゃあ彦右衛門さん、寝ましょう」
「ああ、いろいろ疲れた」
当然だが別々の床で寝た。
深夜。
- 彦右衛門、おい彦右衛門 -
「ん、誰だ?」
彦右衛門は目を開けて起き上がった。
するとそこにいたのは神々しい雰囲気の武将のような人物だった。
「おお、起きたか」
「……貴方は?」
彦右衛門はその人物が只者ではない、妖魔の類ではないと感じた。
「私はお前達人間が八幡大菩薩と呼んでいるものだ」
その人物はそう名乗った。
「もう何が出てきても驚かんつもりだったが、まさか八幡大菩薩様が出てくるとは」
「驚かせてしまってすまないな」
「いえそんな。で、拙者に何用ですか?」
「ああ、お主達は妖魔を退治しにここまで来てくれたのだろう。だから詳しい場所を教えに来たのだ」
「え、やつはどこにいるのですか?」
「宇和島城内だ。正確に言うなら今の藩主にとり憑いて城に居着いている」
「城内ですか。それでは手出しできませんね」
「普通はな。だが問題ない、私の力で藩主の部屋の近くまで飛ばしてやろう」
「部屋の中ではないのですか?」
「部屋には法力を防ぐ強力な結界が張ってあるから飛ばせないのだ。私の力なら破れないこともないが、手間がかかるのでその間にやつに逃げられてしまうかもしれん」
「わかりました、ではさっそ」
「いや、今は長旅で疲れているだろうからな。そんな状態で戦って勝てる相手ではない。それに私の方も準備があるからな」
「……わかりました、ではいつ決行しますか?」
「二日後のこの刻限に。それまで体を休めておけ」
「はい」
「香菜もな。決戦時にはお主の力も貸してもらうぞ」
「わかりました」
いつの間にか香菜も起きていた。
「聞いていたのか?」
「ええ、途中から。初め見た時は巷で評判の『侍と将軍』という衆道読み物の内容を再現するのかと思いました」
「おい、罰があたるぞ」
そして二日後。
「彦右衛門さん、そろそろですね」
「ああ」
二人が話しているとそこに八幡大菩薩が現れた。
「待たせたな、では行こうか」
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