第六話「河童が守るもの 前編」
昔々一人の浪人が旅をしていた。
旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが、
ひょんなことからお地蔵様に刀や服を強化してもらったり、
猫又や殿様の霊に力を貰ったり、謎の老女に技を教えてもらったりと、
浪人石見彦右衛門の旅はいつまで続くだろうか。
「今日もダメか、本当に光るんだろうかこの数珠は」
彦右衛門は河原で一休みしながら呟いていた。
「喉が渇いたな、川の水でも飲むか」
彦右衛門はそう言って立ち上がった。
その時水面が大きく波打った。
「ん? なんだ?」
ザバアッ!
「……え?」
川から出てきたそれは右手に胡瓜を持った河童らしき妖怪だった。
「らしき」なのは河童にしては男前すぎるから。
「すまん、もしかしてお前さんは河童か?」
彦右衛門はおそるおそるその妖怪に尋ねる。
「そうだよ、何だと思った?」
「いや、河童ってもっと抜けた顔だと思ってたのでな」
「人間だっていろんな顔の奴がいるじゃん、河童も同じだよ」
「すまない、それもそうだな。で、川から出てきたのは何か用があっての事か?」
「決まってるじゃん、相撲で一勝負してくれない?」
「決まってるのか? まあ拙者でよければ」
「じゃあいくよ、はっけよいのこった!」
ドン!
ガシッ!
「ぐ、ぐぐ」
「ぎ、ぎぎ」
二人はがっぷり四つに組んだ。
そのまましばらく固まっていたが……、
「ぐ、もうだめ」
「……今だ、そりゃああー!」
彦右衛門が上手投げで河童を投げた。
「くそー、負けたー。あんた強いなあ」
河童が起き上がって両手を上げて言った。
「いや、前に貰った豆を食べてなかったら負けていた」
「何それ? まあいいか。うん、あんたになら頼めそうだ」
「ん? 何のことだ?」
「ごめん、実は頼みたい事があったんだ、だから腕試しさせてもらったんだ」
「なぜそんな事を? 普通に言ったらいいのでは?」
「少なくともおれに勝てるくらい強い人でないと無理だから」
「なるほど。で、頼みとは?」
「実はね、この川に変な奴が住み着いたんだ、そしてそいつがこの川にいる魚を全部食っていくんだよ」
「ふむ」
「適度にしないと川から魚がいなくなっちゃう、っておれや仲間達で止めようとしたんだけど皆やられてさ……なんとかおれだけ生き残ったんだ」
「そうか……」
「そろそろ鮭も川上りしてくるんだ、でもあいつが卵も全部食ったら」
「わかった、そやつを退治するのを手伝おう」
「ありがとうお侍さん」
「拙者は石見彦右衛門と申す、彦右衛門と呼んでくれればいい」
「うん、彦右衛門さん、おれは武蔵っていうんだ」
「むさしか、良い名だな」
「ありがと」
「さて、そいつはどこにいるんだ?」
「今は上流にある滝の裏で寝てるかも」
「では早速行こう」
こうして彦右衛門と河童の武蔵は上流の滝へと向かった。
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