第六話「河童が守るもの 後編」
河童の武蔵と共に川の上流へ向かった彦右衛門。
そこに辿り着いて見たものは
「なんだあれは?」
そこにいたのは手足が生えた鮫のような化け物だった。
手に斧を持ったまま寝ている。
「あいつが魚を、そしておれの仲間を……」
「これで何が原型なのか分かれば相当などらくえ好きな方だな、もしくは落ち物げーむ好きか」
彦右衛門は意味不明な事を呟いた。
「……ふぁああああ」
「お、目を覚ましたようだ」
「腹が減った、魚食うか」
鮫の化け物がどこかへ行こうとした。
「ちょっと待て」
彦右衛門は鮫の化け物に声をかけた。
「ん? なんだお前……あ、オレの飯の邪魔した河童も。懲りないやつめ」
鮫が武蔵を見て言う。
「よくもおれの仲間を……」
武蔵が鮫を憎々しげに睨んだ。
「武蔵、ちょっと待ってくれんか。おい鮫、かどうかわからんがこう呼ばせてもらうぞ」
彦右衛門が言うと、
「何でもいい。それで何だ?」
「お前さん川の魚を食うのはいいが、根こそぎ食ったら魚がいなくなるだろ」
「そんなもん知ったことではない、いなくなったらまたよそへ行くだけだ」
「そんな事を繰り返していたら、いずれこの国から魚がいなくなるぞ」
「ではオレは飯を食わず死ねとでも言うのか?」
「いや、もう少し加減はできんのか?」
「以前はできたんだがな、いつからか何故か知らんが、たくさん食べないとだめになったのだ」
「……む、もしや……いや、悪いが力ずくで止めさせてもらう」
「やれるものならやってみろ」
鮫は斧を力強く振りかざした。
「うお!」
彦右衛門はその攻撃をかわす。
「うおりゃああ!」
鮫が斧を勢い良く地面に打ちつけると、グラグラと地面が大きく揺れた。
「な、なんだあやつは?」
「あの力の強さにはおれ達の誰も敵わなかったんだ」
武蔵が彦右衛門を支えながら言った。
「ならば……はあ!」
彦右衛門は素早く動き始めた。
「なに?」
鮫はそれを追うことができず、右往左往していた。
「でやあああ!」
彦右衛門が鮫に斬りかかったが、既の所で斧で受け止められた。
「……く、これもだめとは」
「くそー、もう少しだったのに」
離れた場所で言う武蔵。
「うりゃああ!」
彦右衛門が鮫に片手で掴まれて投げ飛ばされた。
「うわああああ!」
「彦右衛門さん!」
武蔵は彦右衛門を受け止めた。
「すまない。くそ、あやつから……出せれば」
彦右衛門がそう言うと、
「このままじゃ……よし、やはりこれしかないよね。彦右衛門さん、ちょっとこれ持ってて」
武蔵はそう言うと頭の上にあった皿を取り外して渡した。
「これ、取り外しできたのか?」
「うん、生涯一度だけね」
「なに!? む、武蔵、お主何をする気だ!?」
「あいつに隙を作る。だから後は頼むね」
そう言って武蔵は鮫目掛けて走りだした。
「なんだ? え……緑色に輝いてる!?」
「この川は皆が生きる場所なんだ、それを守るのがおれ達だー!」
武蔵が叫びながら鮫に抱きつくと、
「はあああ!」
「ぎゃあああああー!」
なんと武蔵と鮫が燃え上がった。
「な……」
そして鮫から黒い霧のようなものが出てきた。
「グオオオ……せっかくこやつにとり憑いて力を蓄えていたのに」
「やはり妖魔か。でやあああ!」
彦右衛門がそれを一刀両断にすると、
「ぐぎゃああ!」
妖魔は断末魔の叫びをあげ、消滅した。
彦右衛門は真っ黒焦げになって倒れている武蔵を見て、
「……武蔵、お主の死は決して」
「勝手に殺さないでよ」
「うわああああ!」
武蔵は生きていた。
ついでに鮫も。
「な、なぜ生きてるんだ?」
「おれ死ぬなんて言ってないよ? あの技は生涯一度しか使えないだけだよ、それだけに使い所が」
「紛らわしい事言うなー!」
「すみません、とり憑かれていたとはいえオレはなんという事を」
起き上がった鮫は正気を取り戻していたようだ。
「あんたも操られてたんだし、もういいよ」
武蔵が首を振って言う。
「そういう訳には……あの、何かオレにできる事があればいくらでもしますので」
「じゃあおれと一緒にこの川を守ってよ」
「え、それでいいんですか?」
「うん、いいよ」
「うう……オレ一生懸命やります、よろしくお願いします!」
鮫は地に頭をつけて言った。
「……なんていいやつなんだ」
彦右衛門は武蔵を見てそう呟いた。
「ありがとう、彦右衛門さん」
「お達者で」
武蔵と鮫に見送られ、彦右衛門はまた旅に出た。
川を下りながら歩いていると、
パシャ、パシャ
どうやら鮭が川を上って来ているようだ。
「……無事に次の命を産む事ができそうだな」
そう思いながら彦右衛門は鮭達を見ていた。
そして、
「あの武蔵という男、もしかすると物凄い大物になるかもな」
彦右衛門が思ったとおり後に武蔵は……いや、これはまたいずれ機会があれば。
とある浪人石見彦右衛門の不思議道中記はもう少し続きます。
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