第四話「夢幻の技 後編」

「でりゃあ!」

 大男は大剣を大きく振り下ろしたが、彦右衛門はそれを素早くかわした。

「さっきより力が上がっているだと!?」


「全力でいかんと貴様には通用しなさそうだからな、とりゃあ!」

「うおっ!?」

 大男が剣を叩きつけると地面に亀裂ができた。

「な、なんという力だ」

「そりゃあっ!」

「なんの!」

 彦右衛門は大男の剣をかわし続けた。


「あいつ妖魔の力も合わさってるから相当強いわね。よし」

 巴はそばに落ちていた木の枝を拾った。

「これでもあの技は使えるわ」

 巴は木の枝を持って気を集中し始めた。



 

「しまった!」

 彦右衛門は地面の亀裂に足を取られて転んでしまった。

「もらったああ!」

「ぐっ!」


「夢幻流・聖光滅魔剣!」

 巴が持っていた木の枝から光が放たれ、それが大男の胸を貫いた。


「グアアアーー!」

 大男に纏わりついていた黒い霧が消え、そして大男は倒れた。



「大丈夫?」

「え、ええ」

 彦右衛門は立ち上がった。

「巴殿、いったい今のは?」

「夢幻流の技でね、ああいう妖魔の類を滅する技なのよ」

「そ、そんなものもあるのですか?」

「ええ。でもこんな技、普通の人は使えないでしょ?」

「たしかに。……はっ!?」

 彦右衛門は殺気を感じて振り返った。


「安心するのはまだ早いぞ」

 見ると大男が立ち上がっていた。

「な、まだ息があったか!?」

「妖魔の霧が消えただけだ。俺自身はまだ戦える」


「え、あんた取り憑かれてたんじゃなかったの?」

 巴がそう言うと、

「俺は我が主、大魔王様復活の為に妖魔と手を組んだだけだ」

「な、なんですって……?」


「下がってください。ここは拙者がやります」

 彦右衛門が前に出て言った。



「少々ズレている気もするが、その忠誠心は見上げたものだ」

 彦右衛門が再び構えて言うと、

「その言葉には礼を言うが、容赦はせん」

 大男も剣を構え直した。



 そして、睨み合いが続いた後、

「うりゃあああ!」

 大男が突進してきた。

「さっきよりは早くない、よし!」

 彦右衛門は素早く大男の後ろに回り込み、

「たああっ!」

 背中を斬りつけたが、

「な、斬れん!?」

 彦右衛門の剣は鎧に当って弾き返された。

「俺の鎧はそんな剣では斬れんぞ」

「なんだと?」

「どりゃあ!」


 大男が斬りつけてきた。

「くっ!」

 彦右衛門はそれをかわした。


「力も落ちたが、それでも貴様を仕留めれるくらいは残っているぞ」

「そのようだな。それにあの鎧の硬さ、拙者の力では……そうだ!」

 彦右衛門は何か思いついたようだ。

 そして間合いを取り、


「……通用してくれよ、はああ」

 気を剣に集中し始めた。

「なんだいったい? まあいい、この一撃で決めてやる」

 大男がそう言って剣を振り上げたその時、


「鳳凰一文字斬!」


「なあっ!?」

 鎧が大きな音を立てて砕け散り

「ば、バカな……?」

 大男は気を失って倒れた。


「ふう、なんとかなった」

 彦右衛門は片膝をついて安堵した。

「す、凄いじゃない!」

 巴が駆け寄ってきた。

「はあ、でもあれはまだまだですよね?」

「そうだけど、この僅かな間であの威力に達した人なんて他にいないわよ! 本当に凄いわ!」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「それはこっちの台詞、助けてくれてありがとうございました」




 その後彦右衛門と巴は正宮で参拝した。

「あの、巴殿」

「はい?」

「巴殿はただお参り来たのではないのでしょう? 何か他の理由がおありなのでは?」

「ええ、実は夢でお告げがあったの、ここに来れば私の願いが叶うという」

「願いとは?」

「ごめんなさい、それは言えないの」

「ああ、すみません」

「いえ、いいんですよ。……さてと、もうここでお別れね」

「はい巴殿。お達者で」

「彦右衛門さんもね。ありがとうございました」


 彦右衛門はその場から去っていった。


 ……。


「あ」


 …………。


「はい、ありがとうございます」


 巴の目の前に光の扉が現れた。

「これで帰れるわ、に。ありがとうございました彦右衛門さん、この国の皆さん」

 巴がその扉をくぐると、光の扉は最初から無かったかのように消えた。




「鳳凰一文字斬、完全に使えるように修行するか」

 彦右衛門はそう呟きながら道を歩いていた。

 そして彼が鳳凰一文字斬を完全習得したのは、旅が終わってからであった。




 とある浪人石見彦右衛門の不思議道中記はまだまだ続きます。

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