第四話「夢幻の技 中編」

 そんなこんなで彦右衛門は巴と共に伊勢神宮へと向かう事になった。


「あの、巴殿」

「はい、なんでしょう?」

「あなたが言っていた夢幻流とはいったい? 拙者はそのような流派を聞いたことがないのですが」

「あ、ああえと、これ門外不出なんですよ。だから知らなくても無理はないですよ」

 巴は少々言葉に詰まりながら答えた。

「そうなんですか? それではもし拙者に夢幻流を伝授して欲しい、と願っても無理ですよね」

「いえ、あなたは技を悪用するような方に見えませんから教えてもいいですよ」

「え?」

 彦右衛門は驚いて巴を見た。

「ただしさっきの技だけね。いくらなんでもすべての技を教えるわけにはいきませんわ。それに」

「それに?」

「夢幻流の技は普通の人間には使えないものもありますしね」

 彦右衛門は首を傾げた。

「それでどうします? 本当にお教えしましょうか?」

「は、はい! ぜひ!」

「ふふ。では目的地に着いてからという事で」




 それから旅は順調に進み、彦右衛門が言ってたとおり三日後には伊勢神宮に辿り着いた。


「ここに天照様が……ああ」

 巴は橋の向こうを見ながら手を合わせた。

「さ、ここより中へ入って参拝しましょう」

 彦右衛門が言うと、

「いえ、その前に約束どおりあの技をお教えしますわ」

「え? 別に後でも」

「後だとこっちがちょっとね。さ、行きましょ」

「は、はあ」




 彦右衛門は巴に連れられて人気のない森の中に入った。

「ここならいいわね。じゃあ早速始めましょ」

「はい。お願いします」

「えっとね、鳳凰一文字斬は簡単に言うと、剣を振ってかまいたちを起こすのよ。それで敵を切り裂くか風圧で吹き飛ばすかね」

「なるほど、ですが普通にやってもあの威力にはならないでしょう」

「ええ。凄まじい素振りだけじゃなく、気を練ってそれを剣に乗せる感じね」

「そうですか。それでどのような修行をすれば使えるようになりますか?」

「うーん、とりあえず一度真似してやってみて。それを見てから彦右衛門さんに合うと思うやり方を教えますわ」

「はっ、では」


 彦右衛門は剣を構えそして意識を集中し、そして

「……はあっ!」

 

 鋭い振りだったが巴のようにはいかなかった。


「やはりそう簡単にはですな」

「でもいい筋してたわよ。彦右衛門さんって思った以上に力があるのね」

 以前もらった豆のおかげで彦右衛門の力は格段に上がっていた。

「これなら……そうね、今から言うとおりにしてね。まず座禅を組んで」

「は、はい」

 彦右衛門は座禅を組んだ。

「そして目を瞑って、体中の気が丹田に集まっていくよう頭に思い浮かべて」

「は……ん~」

 彦右衛門は言われたとおり、それを思い浮かべる。

「それを続けているとね、やがて体中の気を自在に操れるようになれるわ。なかなかうまくできない人の方が多いけど、彦右衛門さんならできると思うの」

「そ、そうですか」

 彦右衛門はそれから座禅を組み、気を集中した。




 しばらくして

「ん? 誰かいるの?」

 巴は何者かの気配を感じ取った。

 

「ほう? 気配は消していたつもりだったが流石だな」

 現れたのは黒い霧のようなものを身に纏った鎧武者風の大男だった。

「あなた誰?」

「名乗ってどうする? あんたは今から死ぬんだからな」

「はい?」

「覚悟してもらおう、……の太后様」

「え、何故私の事を!?」

「せりゃあ!」

 大男は持っていた大剣を巴に振り下ろした!

「しまった、私今丸腰……きゃあっ!」


 ガキイイーン!


「え?」

「いきなりなんだお主は!?」

 巴がよく見ると彦右衛門が大男の大剣を剣で受け止めていた。

「俺はそれはその女を始末しに来たのだ」

 大男はそう答えた。

「何故に!?」

「その女はいずれ今は眠っておられる我が主を倒すと下駄占いに出た、だからだ」

「そんな不確かな事で命を狙うな!」


「不確かだと? まあいい、邪魔するなら貴様にも消えてもらおう」

「させるか! そりゃあっ!」

 彦右衛門は大男の大剣を押し返した。

「む、なかなかやるな。よし」

 大男は間合いをとって構えた。

「む……」

 彦右衛門も構えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る