第五話「夢のまた夢 前編」
昔々一人の浪人が旅をしてた。
旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが、旅先でいろいろと妙な事に巻き込まれるようになった。
浪人石見彦右衛門が仕官できる日はいつだろうか。
「うーん、天下の台所と言われているここでもダメか。数珠も光らないし」
彦右衛門は大坂まで来ており、あちこちと回ってはみたがどこもダメだった。
「ふう……」
彦右衛門がため息をつきながら歩いていると
「あー、おみゃーさんどーなさった?」
「え?」
振り返ってみるとそこにいたのは百姓風の小柄な老人。
その顔はなんとなく猿に似ていて愛嬌があった。
「あの、拙者ですか?」
「ああ、あんた何か元気にゃーみたいだでつい声かけちまった、すまねえ」
老人が頭を搔きながら言う。
「あ、いえいいですよそんな」
「で、何かあったかね?」
「ええ、実は……という訳でして」
「そうかい、今は泰平の世じゃからなかなか仕官先もねーだろさ」
「そうですね」
彦右衛門はそう言って項垂れる。
「もしワシが殿様だったなら、あんたみたいな人ほっとかんけどにゃあ」
「え? 何故?」
「だってワシみたいな小汚い百姓のジジイ相手でも偉そうにせず接してくれる、そんなお侍さんなかなかおらんでのう。他の侍達にこの人を手本にしろ、って言ってやりたいわい」
老人は笑みを浮かべて言った。
「そうですか。それはありがとうございます」
「あ、いた」
そこに長い髪を後ろで束ね、桃色の道着に紺色の袴を着た少女がやってきた。
「もう、こんなところで油売ってないで早くしてください!」
「あ、すまんの
「まったくもう。あれ、こちらの方は?」
美華と呼ばれた少女は彦右衛門に気がついた。
「あ、拙者は石見彦右衛門という旅の浪人です」
「わたしは美華といいます、あの、
「藤吉郎様? あのご老人、もしかしてあなた身分のある方ですか?」
彦右衛門が老人に尋ねた。
「あ~もう美華さんや、せっかく暫くの間は百姓でいようと思うとったのに」
「あ、しまった。ごめんなさい」
美華はうっかりしてたとばかりに口を押さえた。
「あの、何か訳ありなら深くは聞きませんが」
「いや……なあ美華さんや、どうせならこの人にも手伝うてもらおうじゃないかに」
「え? でも」
「この人は相当な力があるぞ、ワシにはわかる」
老人、藤吉郎は真剣な顔つきで言った。
「あの、いったい何の話を?」
「ああすまんのう。実はな、ワシはこの美華さんがとある物を探しとったのを聞いたのでな、それがある場所へ案内するところだったんじゃ」
「そうなんです。わたしは主の命をうけてそれを探していたんですが、手がかりがなくて困ってて。そんな時藤吉郎様と出会って、これからそこへ行こうとしてたんです」
「とある物とはいったい? それになぜ藤吉郎殿はその場所を知っていたのですか?」
「ああそれはな、かつてワシがそれを埋めたからじゃ」
「は、何故に?」
「いやの、手に入れた当時はただの珍しい石と思うたがな、後になってとんでもないシロモノだとわかってのう。こんなもんがあると世に知れた日にゃーこの国を滅ぼしかねんと思うて埋めたんじゃ」
「そんな大層な物を何故に美華殿は?」
「……決して悪用するわけではありません、それは信じてください」
美華は真剣な眼差しで言う。
「ああ、ワシは美華さんは信じるに足る人と思うたから教えたんじゃ」
藤吉郎も頷きながら言った。
「そうですか。で、藤吉郎殿、拙者は何をすればいいのですか?」
「いやのう。おおよその場所はわかっとるんじゃが、目印が無うなってしもうたから詳しい位置がわからんようになったんじゃ、だから」
「ようするにその辺りを手当たり次第掘り返すから手伝えと」
「まあそういう事じゃ、礼はするでどうかひとつ」
「はあ、わかりました。ところでおおよその場所ってどこですか?」
「ああそれはのう、あそこじゃ」
「え? あそこって……藤吉郎殿、あなた本当にいったい何者ですか?」
「ワシはただの百姓じゃわい、今はの」
藤吉郎が指した先にあったのは、今は幕府直轄領で西国支配の拠点である大坂城だった。
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