第四話「夢幻の技 前編」
昔々一人の浪人が旅をしていた。
旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが
ひょんなことから妙な事に巻き込まれるようになった。
はたして浪人石見彦右衛門は無事仕官できるのだろうか?
「はあ、やっぱり光らんなあ」
彦右衛門は数珠を見ながら山道を歩いていた。
しばらく進んでから、彦右衛門は道の片隅に座り込んでいる旅装束の老女を見つけた。
「ん? もし、どうされました?」
彦右衛門は老女に声をかけた。
「え? ああいえちょっと疲れてたもので。たいした事はありませんよ」
そう言って老女は立ち上がった。
よく見ると上品そうな顔立ちで、高貴な家の者かと思わせるような立ち振る舞いをしていた。
「そうでしたか、それは失礼を」
「いえいえ、気にかけてくれてありがとうございます」
「ところでどちらまで行かれるのでしょうか?」
彦右衛門がそう言った途端、老女は俯いてしまった。
「あの、何か?」
「……実はある場所まで行きたいのですが、どっちへ行けばいいのかわからなくて困ってたんです」
「なんだそうでしたか、それでどちらへ?」
「天照様が祀られている場所です」
老女はそう答えた。
「天照様、すると伊勢神宮か」
「ええ、その伊勢神宮に行けば……あ、いえ何でもありません」
「?」
彦右衛門は首を傾げた。
「それでその伊勢神宮はどう行けば?」
「ここからですと、この街道を西へ三日ほどでしょうか」
「そうですか。どうもありがとうございました」
老女は彦右衛門に礼を言ったその時
「へへへ。おいてめえら、金目のもん出せや」
いかにも「俺達は山賊だ」という格好の男数人が二人に絡んできた。
「侍はともかくババアはいいとこのモンに見えるな、さぞ」
山賊の一人が仲間達に向かってそういった時、
ゴンッ!
「な?」
大きな石が山賊の頭に当たった。
「誰がババアですってええ!」
老女は鬼の形相で山賊達に凄んだ。
「な……おい、やっちまえ!」
山賊達は剣を抜いて構えた。
「む」
彦右衛門も剣を抜いて構えたが
「お侍さん、ここは私が」
老女は彦右衛門を制してそう言った。
「え? いやしかし」
「いいから。それともあなたも私にやられたいの……ねえ?」
「ひいいっ!?」
老女の底冷えするような声に彦右衛門は思わす悲鳴をあげた。
「フフフ、私を怒らせた事を後悔させてやるわ」
老女はそう言って山賊達の方へと走っていった。
「な、何者だあのご婦人は? 凄まじい殺気だったぞ」
彦右衛門は老女の殺気を感じて震えていた。
「ん? ババアが一人で向かってく……え?」
「てりゃあああ!」
「ブギャア!?」
山賊の一人は老女の飛び蹴りを顔面に受けて倒れた。
「だ~か~ら~、誰がババアですってえ~?」
老女は倒れた山賊の頭を踏みつけながら言った。
「お、おい、どうする?」
「慌てんな、これだけの人数でかかればあんなババアなど」
「ふ~ん、あなた達も言うのね~」
老女は踏みつけていた山賊が持っていた剣を取り、
「これでもいけそうね、よし」
その剣を構えて間合いをとった。
「……素人ではないな、しかしあの構え、どこの流派だ?」
彦右衛門は老女が相当な剣の使い手だと見抜いた。
「うりゃあああ!」
山賊達が一斉に襲いかかってきた。
「……夢幻流、鳳凰一文字斬!」
「ギャアアアアーーー!?」
山賊達は全員何が起こったか理解できないまま遠くへ吹っ飛んでいった。
「ふう、峰打ちにしてあげたから死んじゃいないでしょ、たぶん」
それを見た彦右衛門は絶句していた。
「さ、お侍さん、行きましょうか」
老女が彦右衛門に声をかけた。
「は? あのどういう事で?」
「いえ、私実はこの国の道がよくわからないの、だから行けるところまででいいから道案内してくれませんか?」
「え、ええ、拙者は構いません。伊勢神宮までお送りしましょう」
「よかった。ありがとうございます。あ、私の名前は
「巴殿ですか。拙者は石見彦右衛門と申します」
「彦右衛門さん、ですね。よろしくお願いします」
「は、はい」
(夢幻流、そんな流派聞いたことないぞ? それにあの技、人間技ではない)
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