第三話「永遠の忠義 前編」
昔々一人の浪人が旅をしていた。
旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが
ひょんなことからいろいろと妙な事に巻き込まれるようになった。
はたして浪人石見彦右衛門は無事仕官できるのだろうか。
「しかし本当に光るのか、この数珠は?」
彦右衛門は数珠を見ながら歩いていた。
しばらく歩いていると、城跡のような場所に辿り着いた。
「誰もいないようだな。よし、ここで野宿するか」
彦右衛門は木陰で焚き火をして休んだ。
真夜中……
「ん、何だ? 誰かいるのか?」
何かの気配がしたので辺りを見渡したが、暗闇に包まれた城跡以外は何もなかった。
「……? 気のせいか」
彦右衛門はまた眠りについた。
辺りが明るくなったので彦右衛門は目を覚ました。
「うーん、もう朝かって、え?」
辺りを見渡すと城跡だった場所には立派な城が建っていた。
「な……? これは夢か?」
彦右衛門は頬をつねった。
「痛い。夢ではないな。一晩で城が建つなんて墨俣城じゃあるまいし」
彦右衛門がそう呟いていると
「おいお主、そこで何をしている?」
「え?」
振り向くとそこにいたのは、侍のような恰好をした中年の男だった。
「見たところ浪人のようだな。仕官を求めて来たのか?」
「は、はい。拙者は石見彦右衛門という者です」
「そうか。だがあいにく御館様は留守なのだ。代わりに城代のワシ、
「は、はい(御館様だと?)……あの」
「なんだ?」
「このお城って昨日はなかったような気が?」
「お主寝ぼけておるのか? この城はずっと昔からここにあるわ」
「は……そうでしたか。申し訳ありません」
「まあいい。ついてまいれ」
彦右衛門は嵐童に連れられて城の中へと入っていった。
城の中は静かで、人の気配がまるでしない。
「嵐童殿。このお城にはどなたもいらっしゃらないのでしょうか?」
「ああ、皆御館様と共に出かけたのでな」
「え、警護の者とか女中などは?」
「それら全員一緒に行ってしまった。だが城を空にしたらいかんからワシが留守番を引き受けた」
「は、はあ。それはお疲れ様です」
「いやいや。さ、この部屋で待っていてくれ。お主朝飯まだであろう? 何か持ってこよう」
「あ、ありがとうございます」
そう言って嵐童は部屋から出て行った。
(何かおかしい。嵐童殿は悪人には見えぬが?)
やがて嵐童が握り飯と味噌汁と漬物を持ってきた。
彦右衛門はそれをあっという間に平らげ、ひとごこち着いた時
「うむ、いい食いっぷりだったぞ。ところで仕官の事だが、ひとまず仮採用という事で構わぬか? 御館様が戻られたら正式に仕えれるようにするから」
「拙者は構いませんが、御館様がお気に召さなければ」
「お主なら御館様もきっと気に入られるであろう。さあ、一休みしたら仕事をしてもらおうか」
「え、どのような仕事でしょう?」
「雑用などの武士らしくない仕事しかないがな。まあ御館様が帰ってくるまでの辛抱だ」
「は、はあ」
それから彦右衛門は部屋の掃除をしたり薪割りをしたり草むしりをしたりと、いろいろやっているうちに夕方になった。
「ふう、これで終わりですかね」
「ああ、お主が来てくれて助かった。さ、夕飯にしよう。風呂も沸かしておくから」
「あ、ありがとうございます」
彦右衛門は風呂の後であてがわれた部屋に戻り
「何か違うような? うーん」
そう考えながら床についた。
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