第二話「美貌の女妖怪と…… 後編」

 猫又に事情を聞いた彦右衛門はよそから来たという妖魔を退治しに猫又と山の上へと向かった。


 そして頂上に着いて

「あれなのよ」

「……あれか」

 そこにいたのは黒い霧のようなものに全身を覆われた大ねずみだった。


「ふむ、あれは妖魔に憑かれてるのだろうな」

「そうなのよ、あの黒い霧が来たせいで。あいつは元々ケンカ友達みたいなもんだったのよ。本気で憎い相手じゃないのに」


「よし、拙者の剣で妖魔を斬ってやろう」

「でもあいつ凄く素早いよ」

「そうなのか、では小手調べ。そりゃ!」

 彦右衛門は大ねずみに斬りかかったが、あっさりかわされてしまった。

「む? なら全力で」

 かなり早い太刀筋だがやはり当たらない。


「くそ、拙者も早さには自信があったのに」

「私も前は全力でかかってもだめだったの、力も強いし」

 そう言ってると


「チュー!」

「ぐおっ!?」

 大ねずみの正拳突きが彦右衛門の腹に決まった。


「ぐ……お地蔵様に強化してもらった服でなかったら死んでたな」

 それでもかなりの衝撃で動けなくなっている。


「今度は私が……フー!」

 猫又は物凄い早さで大ねずみに飛びかかった!


「キシャー! ガブッ!」

 猫又は大ねずみに噛み付いたが


「う、嘘? 歯が通らない」

 ドン!


「うにゃああああ!」

 大ねずみに弾き飛ばされて木に激突した。


「大丈夫か!」

 彦右衛門は猫又に駆け寄った。

「そんな……かなり力を増やしたのに、ううっ!」

 猫又は口を抑えた。


「どうした、どこか打ちどころが悪かったか!?」

「ううん、そうじゃないけど急に気持ち悪くなって」


「……もしかして? とにかくお前はそこで休んでろ、拙者がなんとかするから」

 そう言って猫又を木の下に寝かせると

「闇雲に動いても当たらん・・・・・・向こうが攻めてきたら後の先を取るか」


 しかしそう簡単にはいかなかった。

 彦右衛門は大ねずみの素早い動きについていけず何度も攻撃を食らった。

「くそ・・・・・・」


「う……そうだ、お侍さん」

 猫又は重い体を引きずって彦右衛門に近づいた。

「無理をするな! で、何だ?」

「ちょっと待ってて・・・・・・にゃにゃにゃにゃー!」

 猫又は何か可愛らしい呪文?を唱えた。

 すると彦右衛門の体が光りだした。


「やった、うまくいったわ。あのね、私が持っている瞬発力を全部あんたにあげたの。これならいけるかもしれない」

「おお、なんだか体が軽くなったような……よし!」

 彦右衛門は今までの何倍も素早く動けるようになった。


 そして

「たああああーーー!」

 大ねずみを斬った。


「チューーー!」

 大ねずみは倒れたが

「ぐぬぬぬ……おのれ」


 大ねずみを覆っていた霧、妖魔が動き出した。

「くそ・・・・・・こうなったら貴様等も道連れだ」

「させるか! 未来を創る命を消させはせん! うぉりゃあーーー!」


「ぎゃあああああー!」

 妖魔は消滅した。




 そして

「大ねずみ、大丈夫?」

「チュー。大丈夫だチュー」

 どうやら妖魔には強力な一撃だったが、大ねずみとしては浅い傷だったらしい。

 手当てをうけてから

「チューチュー、取り憑いてた奴やっつけてくれてありがとー」


「いや、礼には及ばない、しかしお前さんも災難だったな」

「うん、いたずらばっかしてたから罰があたったのかもチュー」

「ほんとよ全く……ううっ!」

 猫又はまた口元を押さえて蹲った。


「無理するでない、お腹の子に障るぞ」

「え?」


「猫又が人間と同じなのかはわからんが、おそらくそうだろう」

「え、ええ? じゃあ私のお腹には具吉さんの子供が?」

「そう断言できるって事は、他の男とは」

「他の男は舐めただけで昇天したわよ」


「……まあ、それより男達を元に戻してくれんか」

「ええ……はっ!」

 猫又の体が光ったかと思うと、いくつのも珠が現れて村の方へ飛んでいった。

「これで元に戻るわ、ああ、もう力が殆ど無いわ。これじゃもう普通の人間と変わらない」

「拙者にくれた力を元に戻したらどうだ?」

「戻すのは無理。もうそれはあんたのもの、これからの旅に役立てて」

「ああ、ありがとう」

「こちらこそ」



 山を降りて彦右衛門は老婆や他の村人に全てを話した。

「そうだったんですか、あの妖怪さんが」


「まあ、いろいろ思うところはあるかもしれんが」

「いえ、わしらも妖怪ってだけで怖がってたし」

 村の者達は申し訳なさそうに言った。


「こりゃ具吉、先に子供を作るでないわ! さっさと祝言の準備じゃ!」


「母ちゃん、いいのかよ?」

 元に戻った具吉はそう言った。

「いいに決まっとるじゃろ、お前が決めたのなら」

「ありがとう母ちゃん」


 こうして具吉と猫又の祝言が行われた。




「では拙者はこれにて、達者でな」

「ありがとうございました。」

「ありがとう」


 二人はこれから先いろいろ大変かと思うがきっとうまくやっていけるだろう。

 そう思いながら彦右衛門は再び仕官を求めて旅立っていった。



 とある浪人石見彦右衛門の不思議道中記はまだまだ続きます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る