第三話「永遠の忠義 中編」
翌朝
彦右衛門は嵐童と中庭にいた。
そこにはたくさんの花が植えられていた。
「ほう、これは見事な花ですね」
「これらは御方様がご自分で世話をしておられたのだ。だが御方様は御館様と共に出かけられてな。ワシが世話しておるのだ」
「そうでしたか。それは大変でしょう」
「ああ、だがこの綺麗な花を見ているとそのような疲れも吹き飛ぶわ」
(やはり嵐童殿からは悪い気など感じられん。妖魔の類が化けているとかではない)
彦右衛門は花を見つめる嵐童の顔を見ながらそう思った。
「さて、お主が来てくれたおかげで仕事がだいぶ片付いた。今日はひとつ鍛錬に精を出すか」
「はい」
それから日が暮れるまで彦右衛門と嵐童は鍛錬に励んだ。
「ふう、お主なかなかの腕だな」
「いえ、嵐童殿こそ」
「これなら敵が攻めてきても、なんとかなりそうだな」
「は、敵? それはいったい?」
「今は戦国乱世。いつどこから敵が攻めてくるかわからんだろ」
「……え、ええ」
「さ、飯にするか」
その夜
(嵐童殿はもしかして……まさか?)
彦右衛門は自室で考え込んでいた時だった。
・・・・・・
「ん、誰かいるのか?」
彦右衛門がどこにともなく話しかけると、目の前に体の透けた老武将が現れた。
「何者!?」
彦右衛門が身構えると、
待て、儂は敵ではない。お主に頼みがあってあの世から来たのだ。
彦右衛門は老武将を見つめ、ふと思い当たった事を尋ねた。
「……もしかしてあなたは、このお城の御館様では?」
ああそうだ。
といってもこの城はとうの昔に無くなっているがな。
「……ではやはり、嵐童殿は」
ああ、嵐童もとうの昔に死んでおる。
「そうでしたか。しかしいったい何が?」
それはな、我国は乱世の時代に隣の大国に攻められたのだ。
儂や主だった者は戦場で死んだが、城に残った儂の妻や多くの者は皆なんとか逃げ出せた。
嵐童がたった一人で最後まで城を守ってくれたのでな。
だが自分が死んだ事に気づいていない嵐童は儂らが敵を追い払った後、そのままどこかへ出かけていったと思っているようだ。
「嵐童殿は死んだ後も皆様の帰りを待っているのですね、既に無くなったこの城で」
ああ、この城は嵐童の想いが作り出した夢幻なのだ。
「それで拙者にどうしろと? あなたが直接話せばいいのでは?」
すると老武将は首を横に振り
儂も何度か話そうとしたが、何故か嵐童には儂が見えんようなのだ。
「え?」
何故なのかは儂にもわからぬ。
なので儂は嵐童と話せる者が来るのをずっと待っていたのだ。
「それが拙者ですか」
ああ、すまぬが頼まれてくれぬか。
「わかりました。拙者が必ず」
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