第86話『精霊との夜』
この日、カラロス山の中腹にちょっとした異変が起こっていた。
ボウル村。
いつもは夜になれば、その闇にとけて混じり、息を殺し静まりかえるような場所であるはずなのだが、この夜はどうにも違った。
元来この村の暮らしは素朴なもので、街々で開かれるような煌びやかな催し物とは無縁な生活が続いていた。それも当然。周囲を魔物の蔓延る森で囲まれており、厳しい環境下では乏しい農地と川魚や山草、木の実といった山の恵みだけが頼りで、贅沢に祭りだなんだと開けるものではなかったのだ。
質素倹約、それはこの地で彼らが生きる為の必然だった。
祭り事といってもこれまでは歌や儀式を中心に、酒が少々でてくる程度の簡素なもので、飲めや食えやの大騒ぎとは程遠かった。
それが祭りの時期でもないというのに、村にいくつもない太鼓や笛、弦鳴楽器といったものが物置から引っ張り出され、村の共同倉庫からは次々と食糧と酒が持ち出されていく。
いつもとは違う村の様子に子供達は素直に喜び、祭りだ何だと走りまわっているが、大人達の方はそうも言ってられない。何しろ日頃からの倹約によって貯えた物を、冬越しの為の最低限を残してほとんど運び出してしまったのだから、大人達の多くは気が気でなかったのだ。
村長含め村の上役達から今から何を行わんとするのか、その主旨は村民達も聞かされていたのだが、それがまた突拍子もない話だから余計に彼らは不安を募らせた。
「精霊様だって」
「ほんとうかしら」
「ボルマンの爺さんが連れて来たそうだが……」
設置された松明に火がともされ宴の準備が整い、ボウル村の村民全員がフェスタ・アウラに集められても、村民達はまだざわざわと騒いでいた。
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