第53話 願掛け

 来週に迫ったクリスマス・イヴ。

 終業式でもあるその日は、特別な日であることに間違いなくて、恋人とイルミネーションを見に行くとか、部活のやつらと遊びにいくとか、いろんな理由でみんな浮き足立っていた。

 俺だって、彼女と過ごす初めてのクリスマスなんだから、二人きりがいいと思ってた。


『……右京』


 ガツンと話してくる、と意気込んで翔のところに行った彼女は、なぜか真っ赤な顔をして体育館にやってきた。


『未央、どうした?』


 慌てて近付くと、彼女は俺のTシャツの裾を掴んだ途端、泣き出してしまう。

『右京ー!彼女泣かしてんじゃねぇぞー!』

『うるせぇーって』

 部活のやつらが冷やかしたから、俺はすぐにジャージを羽織って、彼女と一緒に体育館を出た。


『どうした?』

 体育館脇の階段に並んで腰かけると、彼女は突然俺の胸にしがみつく。

『み、未央?!』

 あまりに突然で、あまりに大胆なその行動に思わず背筋がピンと伸びて、両手を上に掲げてしまう。


 だけど、彼女がこんな風に周りを気にせず泣くのは、とても珍しいことだったから、俺は彼女の背中にそっと触れたあと、何も言わずにポンポンと撫で続けた。


 どれくらいそうしていたか分からない。

 未央は涙が止まったあとも、ずっと俺の胸にくっついたままだった。

『急に泣いてごめんね』

 ジャージの中で籠った声が胸に届く。

 彼女のことが心配で堪らなかった。

『……なんかあったか?』

『……うん』

『どうした?』

『……』

『翔と晃のこと?』

『……うん』


 彼女は順番に、ゆっくり話し始める。

 翔の行動に隠された晃への想い。

 それに思わず触れてしまったから、涙が止まらなくなったんだとわかった。

『……右京に』

『俺に?』

『……急に会いたくなったの』

『ん、そっか』

『……どうしてかわからないんだけど』

『うん』


 きっと、不安になったんだ。

 想い合っているのに、うまくいかない二人を目の当たりにして。


 初めてのクリスマスは、彼女と二人がいいって、まじでずっと思ってた。

 思ってた――けど。

 リビングのソファーに並んで座る二人に頼みが出来た。


「右京、どうしたの?お腹すいた?」

 母さんは扉の前で突っ立ったままの俺にそう声をかけた。


「頼みがあるんだけど」

「なぁに?」

「何だ?」

「クリスマス・イヴの日、うちに友達呼んでいいかな」


 母さんは、『未央ちゃん?』とニヤニヤ笑ったけれど、思っていたのと少し違ったからか一瞬だけ目を丸くした。


「いや、俺と左京も入れて6人……の、つもり」

「そっ。じゃあご馳走作ってあげるわよ」


 そう言って母さんは得意気に笑ったけれど、それ以上は何も聞いてこなかった。

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