第52話 白く儚く
『晃、委員会が終わるまで待ってて』
彼がクラス委員だなんて知らなかった。
1年の最初から、今まで……離れていた時間は、実はとても長くて、私が知っている昔の彼は、今の彼のほんの一部でしかないように思えた。
玄関の前で彼を待つことにした私は、靴を履き替え外に出た。
冷たい冬の風が、学校のまわりから彩りを連れ去ってしまったから、そこは一面灰色だ。
吐いた息が白く目の前を曇らせる。
『晃は色白だから雪が降ったらどこにいるかわかんなくなるかもな!』
『んなわけないでしょ』
いつだったか札幌の冬を教えてくれながら、ふざけて彼が言った。
――雪が降ればいいのに。
降って降って降りまくって、私を隠してくれたらいいのに。
そう、願いながら空を見上げた。
「……晃」
ドアを開けて出てきたその人は驚き声をあげる。
そこに立っていたのは――。
「……翔」
二人の白い呼吸が一瞬絡み合ってから空に消えた。
「あいつのこと待ってんのか?」
「うん」
「そっか」
久しぶりに並んだ隣と、久しぶりに交わした会話。私はすごく緊張していた。
「中で待てよ。寒がりなんだから」
「あ、あぁ、うん」
「寒がりのくせに薄着だし」
彼は微笑み私にそう注意する。
いつもの、いつも通りの彼だったから、思わず素直な自分が出てきてしまう。
「……雪が」
「ん?」
「雪が降ればいいなって思って見てた」
「……雪か」
彼は、さっきの私のように空を見上げる。
私はその横顔に目を奪われたまま離せなかった。
翔……。
話したいことが沢山ある気がするのに、それは言葉になってくれない。少しだけ開いた口から相変わらず洩れる白い息は彼に届くことがないまま、また儚く消えていった。
「じゃあ、俺行くわ」
彼は急にこっちを向くとニッコリ笑う。
そして、少し躊躇ったあと、自分の首からマフラーを外して私の首にそっと巻いた。
「風邪ひくなよ」
そう言いながら、私の口元でマフラーを縛ると、彼は校門へ向かって歩き出す。マフラーから、翔の香りがして喉の奥がぐっと詰まった。
「……翔っ」
少し離れてしまった彼を咄嗟に呼び止めたけれど、振り向いた彼に何か言えるわけじゃなくて、二人の視線だけがぶつかる。
すると、突然、彼が叫んだ。
「晃!……もし雪が降っても、いつも通り歩けよ!」
驚く私に彼は続ける。
「怖がってると転ぶから!」
「思い切り歩け!!」
……うん。
……うん、うん。
私は何度も何度も頷いた。
そして、彼が見えなくなるまで我慢した。
ボロボロと零れた涙。
――気が付かなきゃ良かった。
彼のマフラーで顔を隠して思う。
お願い、誰か、私を……隠して。
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