第44話 空振り

 あんな女、本当にいるんだな。

 自分が一番になりたいから、チヤホヤされたいから、ただそれだけの理由で、西村をボロボロにした塩田のことを思い出していた。

 自分の格を上げるために、付き合う相手まで選んで決める。

 そこまでくると、俺にはさっぱりわかんない。

「1+1は2じゃない……か」

 母さんがいつだったか俺らに話した謎なぞは、もしかしたらこういう意味なのかな…?


 隣に座る未央と目が合った。


 西村のことは、翔が家まで送っていった。

 彼女は何度も振り返る。

 その度に、未央と高木が叫んだ。

『また明日ねー!』

 まだ西村はあまり笑わないけれど、とても嬉しそうだったと思う。

 寂しそうだった目も、表情も柔らかいものに変わっていたから……。


『許さないから』

 そう言い切る未央は、痺れるくらい格好いいと思った。やっぱり、この子を好きになって良かった。


「……ん?」


 首を傾げる彼女が可愛かった。


「騙されてごめん」


 塩田を未央だと間違ってごめん。

 ちゃんと見えてなくてごめん。


 そっと彼女の耳元に手を寄せる。

 しばらくすれ違ってばかりだったからか、彼女が足りなくて仕方ない。

 後頭部に手を回して、キスをしようと顔を近づけた。


 ――その時だった。


「ねぇ!!」


 俺の胸を手で押して少しだけ離れる彼女。

 空振りした唇が情けなくて慌てた。


「なんで茉由は左京君じゃなくて右京だったのかな!?あのあたりって、左京くんまだ千草と付き合ってなかったよね?」


『スポーツマンがタイプなのかな?』とか『人のものの方が燃えるタイプ?』と悩む彼女にずっと隠していた『あること』を話した。


「……わかんねーけど、たぶん」

「たぶん?」

「学祭の初日に、体育館の前で未央だと思って呼び止めたことが……あるんだ、俺」


 あとから思い出した事実。

 あの時、俺が間違えたから、彼女は次の標的を未央に決めたのかもしれないと思った。

 その時、彼女が未央とすり変われると思ったとしたら、俺のせいだと思って、すぐに言えなかった。


「私と間違えた?!」

「ご、ごめん!」


 ハーッと深く溜め息をついたあと、彼女はまた口を開く。


「右京、実はああいうの好きなんじゃない!?試合見に行きたいって言われてデレデレしてたし!!」

「はぁ!?してねぇよ!」

「いや、わかんないね。さっきだって、体、密着されて嬉しかったんじゃないの?!」


 そう言われ、彼女が俺にすり寄ってきた時の事を思い出す。


「……あぁー、意外とでかそう……あっ!!」


 咄嗟に口を押さえたが、時すでに遅し。

 あまりに素直に口走ってしまった俺が、そのあと延々と未央に怒られた話は――機会があればまたいつか。

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