第30話 重なる鼓動
「……さ、左京くんっ」
「……左京くんっ!」
何度呼び掛けても彼は振り向いてくれない。
強く握られた左手が少し痛んだけれど、それ以上に、繋いだ彼の手がどんどん熱くなるのがわかってドキドキした。
廊下で誰かとすれ違うたび視線が突き刺さる。今までの私なら、こんなにたくさんの視線が自分に集まっただけで逃げ出してしまっていただろう。
でも今の私にとって、そんなことよりも彼と手を繋いでいるという事実のほうがずっとずっと重大だった。
―――ドンっ!!!
誰もいない、屋上につながる階段の踊り場でやっと止まった彼は、突然、壁際に私を追い詰めて言った。
「俺が好きだろ?」
背中に感じる壁の冷たさと、聞こえた彼の熱っぽい声。届いた言葉を処理する余裕なんて全くない私は、彼が怒っているんだと思った。
私の手を引く力が強かったから……。
呼び掛けても振り向いてくれなかったから……。
壁に伸ばした手の音が大きかったから……。
きっと怒ってるんだ……そう思ってた。
「俺を好きだろ?」
彼がもう一度発したその言葉が、私の頭の中で何度も何度も再生される。
さっきからずっと彼ばかり追っている私の瞳は、瞬きを忘れていた。
――彼から目が離れない。
近すぎるこの距離は、恥ずかしくて恥ずかしくて仕方ないはずなのに、私の瞳はまるで磁石かのように彼にぴったり貼り付いたままだった。
『俺が好きだろ?』
『俺を好きだろ?』
ようやく追い付いた私の頭の中。
そして、私は、前髪の隙間から覗く彼の瞳がとても熱っぽいことにもやっと気が付いた。
男の子のそんな顔を見たのは初めてだったし、何よりも、それが左京くんだったから…私は動揺してしまう。
……胸の奥の方がきゅうっと締め付けられたかと思うと、そこからジワジワと広がった熱は、私の体を占拠していく。
冷たかった背中までも熱くなり、その熱が、ひんやりしていた壁までも温めるんじゃないかと思った。
出会ったあの日、こんなに近付けるだなんて思ってなかった。
隣の席になって、話せる距離になったのだって私にとっては物凄いことで、毎日少しずつ増えていく彼との時間は『嬉しい』の連続だった。それだけで充分幸せだった。
けれど、日に日に欲張りになっていく。
もっと知りたい。もっと話したい。
……もっともっと近付きたい。
私を……好きになって欲しい。
だけどその反面、彼が私に優しくしてくれても『可愛い』と言ってくれても、勘違いしちゃだめだとブレーキをかける自分もいた。
抑えられない自分と、抑えようとする自分。
もうずっと不安定だった。
左京くん……私、自分の都合のいい方に、勘違いしてしまってもいい……?
体じゅうに広がりきった熱が、瞳まで到達して溢れだした。
「……高木」
彼は驚いたように目を見開いて私の名前を呼んだけれど、言葉がつかえて出てこない。
ただ、ボロボロと涙だけが零れた。
そんな静けさの中、授業の開始を知らせるチャイムがなった。
「……高木、ごめんな」
ずっと私を閉じ込めていた彼の腕が私の頭のすぐ横で、ダランと下がる。
そして、力なくゆっくり微笑むと、彼は私に背中を向けた。
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