第27話 氷の女王
いつもの中庭でお昼を食べようと、四人一緒に体育館裏にさしかかった時だった。
「謝んなさいよ!」
怒った女子の声と、その直後、パシンと響いた音。人が平手打ちをされる光景を初めて見た私は、咄嗟に目を細めてしまった。
あまりに突然のことだったから、右京くんは出ていくタイミングを掴めなかったらしく、その集団をただ凝視する。
一旦は細めた目をゆっくり戻すと、左の頬を打たれた彼女が、ゆっくりと顔をあげるところだった。
「いつまでも茉由の彼のこと追いかけてんじゃねぇよ!」
叩いた子がそう怒鳴る。
その子の横には泣いているのか、顔を両手で覆った髪の長い女の子がいた。
叩かれた方の女の子は頬を手で押さえながらも口元だけはフッと笑い『もし取られたら、取られた方がバカなのよ』と言った。
叩いた子が苛立っているのがわかる。
その子がもう一度手を振り上げたその瞬間。
「せんせー!こっちこっちー!!」
そう咄嗟に声を張り上げたのは未央だった。
その声に驚いて、叩いた子と『茉由』と呼ばれた子は逃げるように校舎へ入っていった。
「だ、大丈夫?」
頬を赤くして立つ彼女に近寄り声をかけてみる。
目があってドキッとした。
ゆるく巻かれた長い髪から覗いた彼女の肌は透き通るように白く、整った顔立ちがとても大人っぽくて、とても綺麗だったから。
「いつまで見てんの」
彼女はそう言うと、伸ばしていた私の手を避けるように校舎の方へと歩いていった。
「……さすが、東のエルサ」
彼女の後ろ姿を見送りながら、未央が言った言葉。ぽかんとしている私たち三人を見て、未央が続けた。
「1組の西村 晃。ものすごい美人だったでしょ?でも人の彼氏を奪うって噂があってね。そのせいかいつも一人だし、ほら、今みたいにいつも冷たい感じなの。だから、氷の女王ってことでエルサ!!」
確かにすごい美人だった、と深く頷く右京くんを見て、鼻の下が伸びてると未央が叱った。
「未央、じゃあ、あいつ、あの茉由って子の彼氏を取ったってことか?」
「んー。多分」
「多分?」
「うちの学校、人数多いし……クラスも一緒になったことないし、正直わかんないんだよね。ただ、噂では、西村さんが茉由の彼氏を取ろうとしたって」
「……ふぅん。そこまで悪いやつには見えないけどな」
「もう!美人だからでしょ!?」
右京くんの最後の言葉、口に出さなかったけれど、なぜか私も共感を覚えた。
なぜか……初めて会った気がしない。
「高木、大丈夫か?」
優しく私に近付く左京くんの足元に、何か光るものを見つけた。
『あれ、これどこかで……』
屈んで手に取る。
それは青いガラス玉がついた髪どめだった。
午後の光を纏ってキラキラと輝くそれは、私の手のひらに青色の輪をいくつも映す。
あたりを見回したが、誰かが探しに来る様子もない。
いつからそこにあったのか、誰が落としたのかもまるでわからないのに、なぜかそれを持ち主のところに返せそうな気がして……。
私はそれをハンカチで包んで、ポケットにしまった。
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