第18話 嘘と本音

 実行委員で忙しいのはもちろんだけれど、朝から彼を避けていた理由は昨日までとは少し違った。

 昨日、鏡に向かって一人練習したセリフが、うまく言えるか心配だった。

 だけど、朝一から言う勇気もなかったから、結局少し遅れてしまった。

 遠くに見つけた彼の表情はどことなく暗い。

 もしかしたらさすがに気が付いたのかもしれないと思った。私の気持ちを知って、戸惑ってるのかもしれない。彼のあんな顔は見たくない……早くいつものあいつに戻してあげなきゃ。

「気合い入れろ、私」


 しゃがみこむ彼の頭を見下ろす。

 溢れだす気持ちを無理矢理に押さえて声を張り上げた。

「ちょっと、右京!サボってないで手伝いなさい!」

 私の声にすぐに反応した彼は、顔を上げてすぐに驚いた。


 短く切ってしまった髪の毛。

 重い自分を捨ててきた。

 頑張れ私。


 頑張れ。

 頑張れ……。


 練習通りに出来ますように。

 涙が出ませんように。


 ***


 上靴を履き替え外に出ると、体育館前の賑わいとは真逆で、中庭には誰もいなかった。

 校門前から延びる各クラスの模擬店の裏側が少し遠くに見える。


 ちゃんと笑えていただろうか。

 重くない告白が出来ただろうか。

 久しぶりに直視した右京はやっぱり格好よくて、そんな彼にまだまだたくさんの気持ちが残っていることに気付かされたが、心の重りは少しだけだが軽くなった気がする。


「頭が軽くなったからかな」


 ベタだけど、やってよかったかも。

 私は毛先を少しだけつまんで一人笑った。

 千草のこと応援するだなんて言ったけど、本当に出来るのかな。

 そもそも、千草は左京くんが好きなのに、右京傷付いちゃうかな。

 それはちょっと……可哀想だな。

 違う悩みが増えたな、と思いながら、ザワザワ賑わう向こう側へ一歩進もうとしたその時だった。



「「未央っ!!」」


 一瞬で他の音がすべて消え去るような感覚。

 静かな中庭がさらにシンと静まり返る。

『未央』

 確かにそう呼んだその声は、聞き間違えるはずなんて絶対にないから、彼のことを考えすぎた私のセンサーがとうとう故障したんだと思った。


 半信半疑で、声が聞こえた方向にゆっくり振り向く。するとそこには肩で息をしながら立ち尽くす右京がいた。

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