第17話 灰色のヒーロー
東高 学園祭 初日
俺は朝からずっと探している。
今日こそは……そう思ってる。
自分の気持ちに気付いた途端、意識しすぎて結局話し掛けられないまま、学祭当日になってしまったから。
「情けねぇー」
赤いヒーローに見えていたとしたら、それは、あいつがそう見ててくれてたからだと気がついた。
高木さんをいいなと思ってたのも嘘じゃない。まさか左京が高木さんを好きになってるだなんて思ってもみなかったけれど、あいつの気持ちを聞いても揺れたりしなかった。
だけど、彼女のことは、思い出す度に体温が上がるのがわかる。
彼女のことを考えていたら、好きな晩飯のメニューにも、好きなバスケにも気持ちが向かないのがわかった。
俺の気持ちを知った日、彼女は泣いたのかな。赤い目をした彼女の顔を思い出す度、心が大きく揺れた。
「あー。くそ!」
探してない時はすぐ見つけられたのに、探し出すと何で見つかんないんだ。
実行委員だからだろうか、朝から1度も彼女を見かけていない俺は、かなりイライラしていた。
「1回店行ってみようかな」
そう思ったその時だった。
人で溢れる体育館前、遠くで長い髪が揺れるのが見える。
水沼……?
……水沼。
……水沼。
「水沼っ!!」
人の波を縫ってその腕を取った。
「え?」
振り向いたその子は、前髪のあたりに青く光るピンを付けていて、俺が探している相手じゃなかった。
「……わりぃ」
掴んだと思ったのに……。
ため息混じりに寄り掛かった壁。
滑るようにその場にしゃがみこんだ。
視界をたくさんの足がただたた通り過ぎる。
誰も俺を気にしない。
俺は赤じゃなくて灰色なんじゃないかと思った。
……あいつ、今日来てないとかじゃないよな。
そう思い、こんどは深い溜め息をついたその時だった。
「ちょっと、右京!サボってないで手伝いなさい!」
視界に入った白い上履き。それは、俺の前を通り過ぎず、こっちに爪先を向けている。
頭上から聞こえるその声に、弾かれるように顔を上げて、驚いた。
「み、水沼、それ」
「あ、髪?切っちゃった」
結んでいたとしても、ゆうに肩を越えていた髪は、肩の上までバッサリ切られ、耳のすぐ下で毛先が揺れている。
呆然とする俺の前に、同じようにしゃがんだ彼女は、いつもの笑顔で話し始めた。
「私、右京が好きだったよ」
「でも、右京の気持ちがどこにあるか分かっちゃって」
「突然無視したりしてごめんね」
「……千草のこと応援するから、なんでも相談して?」
「友達は続けてくれるでしょ?」
そこまで続けて言うと、『よしっ』と言って彼女は立ち上がる。
「あんたがいないと焼きそば売れないのよ。さ、行くよ!お客さん掴まえてきて唸らせなさいよ?」
そう笑って、スタスタ歩き出した。
「ちょっ、おい、水沼!」
なんなんだよ。
呼び掛けてもあいつは全然振り向かない。
上履きから外靴に履き替える間も、こっちをちらりとも見ない。
待てよ。
待ってくれよ。
人混みにまた見失いそうになる後ろ姿。
俺はまだ何にも話してねぇ!
慌てて立ち上がり人波を縫う。
向かってくる奴が全員邪魔だった。
待て。
待てよ。
ちょっと待て!!
「「未央っ!!」」
体育館前から非常通路を通って中庭に出た時、あいつはやっと止まった。
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