小説の世界観をでっかくするヒント

やまどり

世界観のデカさってなんだ?!

 世界観ってよく言いますよね。重厚な世界観だとか、世界観が薄っぺらいとか。

 でもじゃあ世界観って何で測ってるの? ノギス? って言っても答えてくれない。

 仕方ないので、不肖やまどりの考えをご覧にいれよう。



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プロットと世界

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 Fate/stay night をご存知でしょうか。お腹がすきました士郎ってやつですね。

 あれの原初のゲーム版では、実は各サーヴァントにパラメーターが設定されていて、ゲーム画面で確認できます。

 セイバーが騎乗B、ライダーが騎乗A+、とかあとパワーとか魔力とかだったような。

 実はこれが一つ世界観のヒントになりうる要素なのではないかと。


 つまり、ぶっちゃけ文章を追って、選択肢を選んでイベントスティルを集めるだけの作品なのに、そんな戦略モノみたいなパラメーター設定って要らないじゃないですか。オールFでも物語に関係ないっていうか、こっちはそれ見せられてどうしたらいいの? と。

 しかしこれ、ひとつの世界観の広げ方なんですね。

 遠坂凛さんはセイバーこい、セイバーこいと祈ってアーチャーを引き当てたわけですが、なるほどステータス画面を見るとセイバーは図抜けて優秀だ。誰が決めたわけでもないステータス格付け。それが聖杯戦争というものの一つの在り方を暗示している。運否天賦ではなく、設計可能な争いなのだという。


 ここで、物語のプロットを世界が追い越しているのがお判りでしょうか。

 ――問おう。あなたが私のマスターか。

 というプロットの存在以前に、物語に一切関わらないパラメーターが存在している。

 ここで言いたいのは、設定モリモリがよいということではなく、世界がプロットより先に存在している感触があるよね、という。

 大事なのはパラメーターという設定があることではなく、その設定の存在が過去や知覚できない物語の外の設計を想像させる手伝いをすることなのです。



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人間と世界

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 追放された日、雨が降っていて肌寒かった。

 これは構いません。特に問題のない描写でしょう。しかしひとつ考えていただきたいのだが、これって主人公の感情、寂しさややりきれない思いを表現するために、天候という世界が付き従っているのです。

 悲しい一人ぼっちの女の子が捨て猫と触れ合っている。エモいですね。

 でも、猫が女の子に共感性を示すかどうかは本来独立した変数です。嫌がって逃げるかもしれない。そこで猫が都合よく甘えるのであれば、それは猫が物語に従属している。


 世界は人間のためにあるわけではありません。

 世界が「感情描写のための舞台装置」になったとき、世界はとても小さくなってしまう。

 もちろん悲しいときに雨が降ることだってあります。でもそれがいつも小説のために奉仕しているとき、我々は世界が下位の存在に見えてしまう、ということ。



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主物と従物

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 法律用語で主物と従物という概念があります。要は「池を売ったときそこの魚までは売ってない」というのは通らないんですね。池という主物に対して、魚という従物は池なしで存在できず、池に付き従わねばならない(まあ細かく言えば魚が独立して権利の対象になったりするし、取り外し可能な灯篭が家の従物になることもある。気になる人は民法で)。

 逆に、中古の犬小屋を買ったからからといって犬まで付いてくるわけではない。犬は犬小屋のために存在するわけではないからです。


 この概念を世界観や人物に当てはめてみましょう。

 その世界は本当に、その登場人物の従物でしょうか? 他のキャラクターは物語を推進するためだけに配置されていませんか? しかし人間は世界や物語の従物ではない、というのは直感的にご理解いただけると思います。

 だから、世界がある。キャラクターがある。物語がある。これらの互いの主従関係を意識してみていただきたい。



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プロットという重力に負けないために

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 小説を書くとき、特に長編を書くとき、予定した設計図というものが非常に重要になってきます。プロットどおりに書き進めないと計画や計算が狂ってしまう。

 ここに、世界観を狭めようとするブラックホールみたいな重力場が発生します。

 悪い奴は、悪いことをきちんとしてくれなきゃ困る。女の子は、きちんと主人公に好意を持ってくれなきゃ困る。ちゃんとその場面その場面で決められたようにね。

 そうしたとき、人物は果たして生きていると言えるでしょうか?

 脇役が急に存在感を発揮して。主人公より目立ってしまっては困ると思うかもしれません。

 しかし読者は、設計図の匂いを敏感に感じ取ります。「恋愛感情発生するイベントを描け」とかそういう話ではない。

 たとえば主人公がストーリーに関係なく靴を揃えるところ、パンをちぎって食べるところ、歩幅を揃えて歩くところ、そういう部分で「この男に好意を持つ女性がいても不思議ではない」という実感を与える手つきが重要なのです。

 このとき主人公は、説明されずとも弁えのある育ちのいい男として、ひとりの人間として立ち上がる。バックボーンの世界が広がる。そしてなにより「恋愛フラグのために丁寧に暮らしてる男」ではなくなることが最も重要でしょう。



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生きた世界に

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 ここまで拙いながらいろいろ例示してきました。

 簡単にまとめてしまいましょう。

 世界観の深さとは、今目の前に書いてある文章よりも多くの物語が存在している気配です。

 宿屋のおかみさんがなぜかおめかししている。姪っ子が結婚するらしい。どうでもいいですね。でもおかみさんにはおかみさんの物語が進行している。

 その世界の夏の葬儀屋は忙しい。夏場だから時間をかけてられない。なので人手不足だそうだ。ストーリー上どうでもいいですね。でも合理的な生活がそこにある。

 そのひとつ、このひと動作、宿屋の毛布の厚み、市場の品ぞろえ、そこかしこに物語のヒントがあること。

 そんな世界に浸っているとき、僕らは新たな世界をようやく生きることができる。その物語によってね。

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小説の世界観をでっかくするヒント やまどり @ymdr197

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