秋色グレー【恋愛 | 小説】

こぶまき

A Little Higher



 窓を開ければ肌寒い。そんな季節がやってきた。


 冬の浮き足立つ感じでも、春の柔らかな感じでも、夏のエネルギッシュな感じでもない。

 秋。

 秋はグレーだ。



 ミチルは秋になると思い出す。

 昔の恋を。

 他人から見れば特になんの変哲もない恋。


 ***


 サトルとは大学2年生の時に付き合った。

 たまたまカフェで出会い、たまたま同じ本を読んでいた。

「あ、同じ本ですね」 

 サトルの方からサラッと声をかけてきた。



 社交的な奴で、休日は友達とサッカーをして夜は飲みにいく。たまにキャンプやBBQもする。

 絵に描いたような陽キャ。


 ミチルとは正反対だった。


 それでもこの恋はサトルの方から始めた。

 お互いのおかげで知らなかった世界を知れた。

 ミチルの人生で一番カラフルだった3年間だ。


 そろそろ結婚か? とミチルが考えていた頃。

 サトルは別れを切り出した。

 出会ったカフェで。

 ミチルはまだ大好きだった。

 2人で人生を歩んでいけると思っていた。


 暑い夏が過ぎ、窓を開ければ肌寒くなってきたところだった。



 その日から秋はグレーだ。

 今でもミチルはサトルのことを探してしまう。

 いるはずもないのに駅やスーパー、公園。

 サトルはすでにこの街から出て行ってる。


 色をなくしてもう3年は経つ。

 他の男とも付き合ったが、あの日々のように色付けてはくれない。

 グレーのまんま。


 ***


 そんなある金曜日、男に出会った。隣町のカフェで。

 よく散歩で通っている道だが、初めて見るカフェだ。


『ふらいでい』


 カフェというか喫茶店? あまり違いはわからないけれど。



 ミチルはとりあえず入って、メニューも見ずにおすすめのコーヒーを頼んだ。


 ゆっくりとコーヒーを飲む。


「隣いいですか?」


「え、あ、はい」

 特に店は混んではいない。なのに何故か隣に座ってきた。



 絵に描いたようなマスターが食器を拭いている。



「……なにか思い詰めてますか?」

 男はじっとミチルの顔を見る。


 なんとなくミチルの弟に似ていた。

 ……どう考えても弟より若いけど。高校生? いや、下手したら中学生くらいかも。


 なぜか、初対面の男に色々話してしまう。

 話しているうちにサトルに出会った日からの記憶が次々と蘇る。


 そしてミチルは気づくとあの日にいた。

 サトルに別れを切り出されたあの日に。



「俺、あのさ……。別れよ」

 ミチルには唐突に感じた。


「え……。そっか」

 何も言えなかった。聞けなかった。


「うん。じゃ」

 そう言ってサトルは立ち上がる。

 2人分のお金を置いて立ち去る。


 あの時はそこで終わったはず。


「ねえ!」

 3年間ずっと聞きたかったことを聞く。


「1年前に貸した3万円。何に使ったの?」


「え?」

 サトルが素っ頓狂な顔をする。


「返して」

 ミチルは真顔だ。


「え、ご、ごめん。パチンコ行ってきて……」

 サトルは慌てて財布を出す。


「パチンコ?! 辞めるって言ってなかった? まあもうどうでもいいけど。私たち別れるんだし」


「ご、ごめん」

 サトルは3万円をミチルに渡す。


「どうもー」

 ミチルは3万円を受け取りヒラヒラさせながらカフェを出る。


 少しだけ目頭が熱くなった。

 それでも後ろは、振り返らない。



 外は眩しかった。

 ミチルはとっさに目を瞑る。




 目を開けると目の前に弟に似たあの男がいた。

 ここは……隣町のカフェだ。


「あれ?」

 ミチルの手には3万円が握られている。


「どうしました?」

 男は言う。


「3万円だ。どういうこと?」

 ミチルは男に聞く。


「?」

 男は不思議そうな顔をしている。


「いえ。なんでもないです」

 少し男と話してお会計をする。


「もうお代はもらってますよ」

 マスターは男の方に目線をやる。


「ありがとう」

 ミチルは男に向かって言う。


 男は微笑む。


 外に出ると秋風が心地いい。

 天高く馬肥ゆる秋。


 サトル、幸せになっててほしいな。



 ピコン


 マッチングアプリの通知だ。

 マッチングしたらしい。

 イケメンだ。しかも好条件。


『こんにちは! マッチングありがとうございます』


 ミチルはメッセージを送った。



 いつもより少しだけ空が青く、高く見えた。





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