概要
不器用で、見栄っ張りで、タコを入れすぎる。それが父さんの愛し方だった。
二十八歳の秋、鮮魚売場の濡れた床で一度心臓が止まったあの日から、綾瀬の時間は止まっていた。
生き残った現実への「通行料」として、彼は夢を見ることをやめた。Fmaj7からEm7へ落ちるたった四小節のデモ曲『untitled_03.wav』を古いノートPCごと押し入れに封印し、愛車のスイスポを手放し、幼馴染の晴音と所帯を持った。
「ちゃんとした大人」の着ぐるみを着て走った二十三年。
家族の食卓を12リットルの寸胴鍋で満たし、本棚をビジネス書の背表紙で埋め、部屋に枯れない造花を38本並べたその裏で、彼の財布は五社・計504万3千円のカードローンの明細で膨れ上がっていた。
五十一歳の冬、一枚の否決通知が十七年間の嘘を暴き出す。
すべてが崩れ落ちた夜、立ち尽くす父の耳に届いたのは、二階の天井を震わ
生き残った現実への「通行料」として、彼は夢を見ることをやめた。Fmaj7からEm7へ落ちるたった四小節のデモ曲『untitled_03.wav』を古いノートPCごと押し入れに封印し、愛車のスイスポを手放し、幼馴染の晴音と所帯を持った。
「ちゃんとした大人」の着ぐるみを着て走った二十三年。
家族の食卓を12リットルの寸胴鍋で満たし、本棚をビジネス書の背表紙で埋め、部屋に枯れない造花を38本並べたその裏で、彼の財布は五社・計504万3千円のカードローンの明細で膨れ上がっていた。
五十一歳の冬、一枚の否決通知が十七年間の嘘を暴き出す。
すべてが崩れ落ちた夜、立ち尽くす父の耳に届いたのは、二階の天井を震わ