3.いまを、生きてる。

週4・1日8時間で、最近新しく倉庫のアルバイトをしている。


それと、カラオケバーでも週3・1日4時間働いている。


週に2日、倉庫とカラオケバーの勤務が被る日もある。

朝から倉庫で8時間働いて、そのまま夜はカラオケバーで4時間。

時間だけ見れば、結構働いている。


でも、不思議とそれほど苦ではない。

むしろ、この組み合わせが今の私にはちょうどいい。


倉庫でやっているのは、配送用のお菓子のピッキング作業。


まず発注書を取って、倉庫の中を回りながら、そこに書かれている番号の棚を探す。

棚を見つけたら、そこにあるお菓子を必要な数だけ取って、運んでいる段ボールに詰める。

このとき、形も大きさもそれぞれ違うお菓子たちを、ひとつの段ボールの中にうまく収めなければならない。


細長い箱。

平べったい箱。

小さい袋。

かさばる大袋。


それらを、


「これはここかな」

「いや、こっちに入れたほうが綺麗か」


と考えながら、パズルのピースがハマるように詰めていく。

これが、なかなか面白い。

ぴったり収まると、ちょっと気持ちいい。


全部詰め終わったら、また次の発注書を取る。


番号を見て、棚を探す。

お菓子を取って、段ボールに詰める。

終わったら、また発注書を取る。

その繰り返し。


基本はひとりで、黙々と作業をする。


もちろん必要なことがあれば人と話すけど、ずっと誰かと会話をしている必要はない。

目の前にある発注書と、お菓子と、段ボールのことだけ考えていればいい。

精神的には落ち着ける。


でも、8時間もそんなふうに働いていると、今度は人と話したくなってくる。


倉庫の人たちは、私の内面を知らない。

もちろん仕事だから、それでいい。


でも、ずっとそれだけでは物足りなくなる。

自分をさらけ出して、誰かと話したい。

くだらないことを言いたい。


笑いたい。


笑わせたい。


倉庫にいるあいだ閉じこもっていたコミュニケーション欲が、だんだん溜まってくる。

それを、そのあとのカラオケバーで発揮する。


さっきまでほとんど喋らず、発注書とお菓子ばかり見ていた人間が、今度はお酒を作りながらお客さんと喋る。

くだらない話をしたり、笑ったり、一緒に歌ったりする。


昼間とはまったく違う時間だ。


倉庫だけでは物足りない。

カラオケバーだけだったら、人が嫌になる。


ひとりで黙々と働く時間と、人と喋る時間。


今のところ、この組み合わせが私にはちょうどいい。

……たぶん。


どちらの仕事も、淡々と何の負担もなく終わる日もあれば、なんだか心がもやもやしたまま終わる日もある。


カラオケバーで働きだして、もう半年経つ。

毎週来る常連さんとは、もうほとんど顔なじみになったところだろう。


うちのカラオケバーはスナック・バーをうたっていて、店内はカウンターのみ。

20~35歳くらいの女性スタッフが3、4人、カウンター越しにいて、お客さんとお酒を交わしながら楽しく話したり、歌ったりする。

客層は30代~60代の男性が多いが、女性もよく来る。


とはいっても、ガールズバーのように、お酒を飲んでもバックはない。

お客さんも、好きな女の子を指名することはできない。

お酒は、お客さん自身が購入したマイボトルから、スタッフにあげるかあげないか、というもの。


お客さんによって楽しみ方はそれぞれだが、カラオケバーなので、一人がミスチルを歌いだすと、続いて遠くの席にいたお客さんもミスチルを入れて盛り上がったり、ほかの人が歌う昭和ソングを聴いて懐かしんだりする。


最近気づいた。


私はここで、人が喜んでいる顔や、楽しんでいる顔を正面からのぞける。

それが、なんだか私まで嬉しい。


もちろん私は勤務中で、本来なら私がお客さんを楽しませる側ではある。


でも、おじさん同士が楽しそうに話しているところに、女の接待はちがうよなあ、と思う。


歩合制じゃないことをいいことに、そんな瞬間は黙ってひとりタバコを吸う。


煙を吐きながら、この店内の活気あふれた空気を、店のど真ん中で味わう。


それが、たまらない。


お客さんの中には、こちら側の「オンナ」に期待している人もいる。


こういう店で働いている身としては、当たり前なのはわかっている。

でも、苦手なものは苦手。


「Bちゃんがこんなにかわいいのに、お前も見習いな! ま、無理かあ(笑)」


私に対しての、定番のいじり。


何も生まれない。


定番のいじり。


私はそれに、


「ほんとだよなあ!! 勉強させていただきますっ!」


と笑う。


このくだりが、本当に面白くない。


隣の女の子は「かわいい」と言われている。


毎回出勤するたびに、自己肯定感が上がるんだろうか。


「おわらい」枠。


ってやつ?


でもまあ、この薄暗い照明の中で、


「かわいい」

「かわいい」


とちやほやされて、その場で自己肯定感が上がったとしても。


私の場合は、あとでむなしくなるタイプだから、これでいいのかもしれない?


そんなどうでもいいことを、仕事中ずっと考えている。


しょーもな。


常連の、よくしてくれるお客さんからたくさんお酒をもらった日にゃ、私は楽しい。


酒の力と、この空間。


みんなも楽しい。


私も楽しくなる。


この空間をもっと楽しいものにするために、


「またアレ歌って!」


とリクエストされた曲を、全力で歌う。


私は歌が好きだ。

だから全力で歌う。踊る。煽る。


またみんなが笑ってくれる。

私もさらに笑う。


そういうときは、


「ああ、楽しいなあ」


と思う。


だから、退勤の時間が近づくにつれ、むなしく感じる日がある。


この楽しい時間よ、永遠に。


みんなの楽しい記憶に、私が残りますように。


日付が変わった深夜。

帰り道、私はバーから家まで30分歩く。


理由もなく少し、涙が出ちゃうこともある。


みんなはまだ楽しんでいるのかな。って。


この時間に、いろんなことを考えている。


楽しい職場は、永遠じゃない。


今までも、いつも急に変わってきた。

環境や周りの人が変わるだけじゃない。

私の不安定な気持ちが原因だったこともある。


一番厄介なのは、私のこの気持ち。


何が問題で、私は今、この職場が嫌になっているのか。

それすら自分でわからない。


でも、急に辞めたくなることがある。

ふと、消えたくなる。


たとえば、お客さんと来年の私の誕生日のことを約束したこと。


「……いつ辞めるかわからないのに。嬉しいな」


向こうはそんなに本気で言ってないのも、わかってる。


でも、お客さんとの会話の中にあった、そういうちょっとしたことを思い出して、一喜一憂する。


このバーのお客さんや、仲のいい女の子とのコミュニケーションで、


「生きてるな」


って、よく感じる。


みんなに言ったら引かれるかもしれない。

重いって。


でも今は、プライベートや出勤前のInstagramでの私の投稿を見て、リアルタイムでリアクションを伝えてくれる人たちがいる。


その存在が、私が今、この環境の中に存在していることを感じさせてくれる。


これは、ひとりでの黙々作業と、最低限のコミュニケーションしかしない倉庫だけでは得られない。


今に始まったことじゃない。


私があした死んだとき、悲しんでくれる人が今日より一人増えるように。


そのために、今日を生きて、また更新している。

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あした、死んでもいいように。 PandA @panda_is

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