第2話 神の子たちの養育施設

風が、白い布を揺らしていた。

玲司はそこにいた。

いや。

玲司ではなかった。

長い髪。

細い指。

白い衣。

目の前を、小さな子どもが走っていく。

「レイナ様!」

女の子が抱きついてきた。

レイナ。

そう呼ばれている。

不思議なのに、不思議ではなかった。

ここは、神の子どもたちを育てる施設だった。

石造りの建物。

広い中庭。

木々と花。

子どもたちの声。

レイナは、その施設の長だった。

「見て!」

男の子が青い石を差し出した。

「きれいね」

「名前つけて」

「あなたが見つけたんでしょう?」

「うん」

「じゃあ、あなたがつけたら?」

男の子は考える。

「アオ!」

レイナは笑った。

「そのままね」

「いいの!」

男の子は青い石を握りしめて走っていった。

その様子を、少し離れたところから見ている女性がいた。

コトア。

レイナより若い。

施設で長く働くスタッフだった。

「また見てたでしょう」

レイナが言う。

「何をですか?」

「私を」

コトアは笑った。

「見ますよ」

「どうして」

「勉強になりますから」

「そんな大したことしてないけど」

「そこがすごいんです」

昼。

子どもたちが長いテーブルを囲んでいた。

一人の女の子が、皿の野菜をじっと見ている。

「食べたくない?」

レイナが聞く。

女の子が頷いた。

「じゃあ、無理に食べなくていいよ」

「でも……」

「おいしいと感じるものは成長とともに変わるの。だから心配しないで」

隣の子が言った。

「私、それ好き。食べていい?」

女の子が皿を渡す。

「いいよ」

それで終わった。

午後。

部屋の隅で、一人の子が泣いていた。

誰かに意地悪されたわけではない。

みんなが遊んでいる輪に入りたい。

でも、入れない。

レイナは隣へ座った。

「入りたい?」

「……うん」

「一緒に行く?」

首を横に振る。

「じゃあ、ここにいる?」

頷く。

しばらく二人で座った。

やがて、遊んでいた子どもの一人が気づいた。

「何してるの?」

「見てる」

「一緒にやる?」

泣いていた子は、しばらく迷ってから立ち上がった。

レイナはついていかなかった。

コトアが少し離れたところから見ている。

「また見てる」

「見てます」

夕方。

レイナは施設の片隅にある温室へ入った。

ここは、彼女が一人で落ち着ける場所でもあった。

いくつもの植物。

その中で、特に大切にしているものがある。

セージ。

葉に触れる。

香りが広がる。

コトアが入ってきた。

「やっぱりここでした」

「探したの?」

「すぐに分かりました」

コトアは隣に立つ。

「私、いつかレイナ様みたいになりたいです」

「やめた方がいいと思う」

「どうしてですか」

「面倒なこと、多いから」

コトアが笑う。

「それでもです」

レイナも笑った。

セージの香りが強くなる。

そこで玲司は目を覚ました。

時計を見る。

午前五時二十分。

まだ暗い。

夢だった。

なのに、

鼻の奥に、セージの香りが残っている気がした。

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