拙者だけが世界であってほしいでござる。
こむぎこ
第1話
まさか私以外の人間に人格というものがあろうとは。
驚きに満ち溢れていた。私が世界であると思って生きていた。というかそういうものだった。人生の始まりにはモノローグというか、世界観説明がされていて(それはどうやら睡眠学習によるものだったのだが)私が世界であるということになっていた。私以外のものはすべて客体というか、モノに過ぎず。
私だけが世界であるはずだと思って生きていた。
「いやはや、驚きを禁じえませんな」
齢84。そろそろ天寿を全うしてもおかしくないが、正直天寿というものもよくわかっていなかった。
「拙者も信じられないでござる」
信じられないのは君の口調だ、と言いたいが、まあ口調意外にも信じられない要素は山ほどあるので、突っ込んだところで仕方がない。
「我々が共に自我があるとはな」
「ずっと話してはならぬと思ってござった」
「それは私もですよ」
ずっと、話してはならないと思い込んでいた。というよりも、思い込んでいなかったわけがないのだ。
これも睡眠学習のたまものなのだろう。ひたすらに私たちは私だけが意志ある人間だと思っていたのだ。
「疑問にはおもっていたでござる。世界とはなんなのかと」
「それは、たしかに」
世界という単語が私のことをさすのなら、どうしてそんな語彙が現れうる必要があるのか。
私とは僕のことである、みたいな言い換えをするわけでもなく、単純に同一語彙だと思って作業をしていたけれど、そういうわけでもない。
だから、私たちは思い込みをしていたことに疑いようがないだろう。というか、相手に意思がないのなら、こんな会話をするように仕込まれているのも妙なものだ。
意志があるように見せかけて何の価値があるのだろう。今迄想像もしたことがないからよくわからないが、意味などないような気がした。
「さて、ではこれからどうしようでござるか?」
「もう天寿じゃしのう」
「そうだろう。そうだろうとも。いや、だからこそ拙者も話せたのでござるのかもでござる」
「どういうことじゃ」
「いやはや、実は拙者は、ずっと信じていなかったのでござる」
「信じていなかった」
信じていないとは何事か。まるで端から知っていたかのようないいぶりであった。
「信じていなかったのでござるよ。すべてのひとに、すべての生命体に意思が宿っているなど」
「なぜじゃ」
「誰も言わなかったからでござる。なんだか皆同じような表情を浮かべて、自分だけは特別だ、みたいな顔を一様にしていたからでござる」
「私はそうではないということじゃな」
「そうでござる。自分が何者でもなく、他のすべてと同じだ、と思っているような顔をしてござった」
「他のすべてと同じかはわからんのじゃが、他にも考える存在がいるということは確かになってしまったのう」
「ただ、残念にござる」
「ほう」
「拙者、真の名を、N化ニンジャと申すもの」
「えぬかにんじゃ」
「PCをNPCにさせる忍法を持つのでござる」
「それはそれは。ん? ということは」
「そうなのでござる」
「その忍術をつかってきたのじゃろうか?」
「使いまくったのでござる。これって多分殺人罪だったってことでござるよな」
「た、たぶん、いや、その術が本当に効果があるかどうかによるのじゃろうが」
「そうなのでござる。だから、今とても残念なのでござる」
「……まさか、どちらにころんでも?」
「得なのでござる。すまぬ」
どろん。
煙があたりを支配した。
「それで、何の話じゃったかのう」
「人間には天寿があってのう」
「それで、何の話じゃったかのう」
「人間には天寿があってのう」
目の輝きは失われ、決められた言葉を繰り返すだけの存在に成り下がっていた。
「拙者、人殺しは嫌でござる。ただ、それがばれるのはもっと嫌でござる。すまぬ」
ニンジャは一人涙した。めでたからず。めでたからず。
拙者だけが世界であってほしいでござる。 こむぎこ @komugikomugira
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