第5話 野上探偵事務所、本日結成!
浅生誠一郎の逮捕と父親の失脚は大々的に報じられ、日本中を揺るがす大スキャンダルとなった。
けれど、組織の闇を暴いた私への見返りは、
警察手帳を叩きつけての辞職だった。
警察署の重い門を出ると、秋の少し冷たい風が通り抜ける。その門の脇で、ノートパソコンを抱えた山内さんが、所在なさげにポツンと立っていた。
「あ、野上、さん……。その、本当によかったんでしょうか。俺のせいで警察を辞めさせてしまって……」
申し訳なさそうに俯く山内さんの頭を、私は後ろからクシャクシャと豪快に撫で回した。
「何言ってんのよ! あんな腐った組織、こっちから願い下げだって言ったでしょ? おかげでスカッとしたわ。……ただ、困ったことに私、今日から完全な無職になっちゃった。行く場所もないんだけど?」
「あ……じゃあ、僕が昔から使っている場所、あるんですけど。そこ、使いませんか?」
山内さんに案内されてたどり着いたのは、賑やかな繁華街の裏路地にある、年季の入ったレンタルビデオ屋だった。その脇にある狭い階段を上がった2階の角部屋。
扉を開けると、古いパソコンやコード類が山積みにされた、まさにオタクの秘密基地のようなボロ部屋が広がっていた。
「へえ、狭いけど……日当たりは悪くないじゃない」
私は窓を開けて大きく伸びをすると、腰に手を当てて不敵に笑った。
「よし決めた! 今日からここを『野上探偵事務所』にするわ! 私が所長で、山内さんが助手ね」
「ええっ!? 僕が助手ですか!?」
「当然でしょ、あの神業ハッキングを眠らせとくなんて許さないわよ。
これから二人で、新しい正義を始めるんだから! ──あ、ところで山内さん。ここの家賃ってどうなってるの?」
私が何気なく尋ねると、山内さんは急に冷や汗を流し、視線を泳がせながらノートパソコンの後ろに隠れた。
「あ、いや……実は、その……恥ずかしながら、すでに3ヶ月ほど滞納してまして……」
「ちょっと待ちなさいよーーーーー! 私たち二人とも無職で家賃滞納スタートなの!? 美人で腕のいい所長がいきなり路頭に迷うじゃないのよ!」
「ひっ、ひいいいっ! すみませんっ!」
夕暮れのオレンジ色の光が差し込むボロ部屋に、私たちの騒がしい声が響き渡る。
──その後、山内さんが命懸けで生配信したあの自白映像は、またたく間に日本中へと大拡散された。
元国家公安委員長という浅生誠の絶対的な権力も、人々の目をごまかすことはできなかった。政治家としてのキャリアは完全に失脚し、
ひき逃げの真犯人である息子の誠一郎は、言い逃れのできない無数の証拠と共に、正式に逮捕された。
警察の上の奴らがもみ消した真実は、法の外側から、一人の天才ハッカーと、一人の元刑事の手によって完全に引っ張り出されたのだ。
窓の外を見上げると、いつの間にか夜の帳(とばり)が下り、街にはぽつぽつと明かりが灯り始めていた。
あの雨の日の無念は、今度こそ晴らされたのだと信じたい。
「……よし、山内くん! 記念すべき最初の依頼よ。まずはこの部屋の、山のようなゴミの山を片付けるわよ!」
「ええっ、片付けですか!? 所長、僕のハッキング用機材はゴミじゃありませんっ!」
これは私たちの新しい正義の始まり。
家賃滞納3ヶ月。迷子の子猫探しからおばあちゃんの入れ歯探しまで何でも受ける、便利屋同然の凸凹探偵コンビの歴史は、この最悪で最高の瞬間から始まった。
(完)
ーーあとがきーー
野上夕子の探偵日誌の次は…… 『南雲美沙希と漆黒の天体〜アルカナ・ノックス〜』
10月23日に公開予定です。どうぞお楽しみに。
美沙希たちの新しい冒険も、絶対にあなたを退屈させません。
巨大な仕掛けの館の謎を解いた美沙希が、新たに友人ロビーを迎えて挑む、秘宝「漆黒の天体アルカナ・ノックス」――。
さらにスケールアップした、壮大なロマンアドベンチャー!
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『野上夕子の探偵日誌』を最後までお読みいただきありがとうございました!
緊迫した事件の後は、美味しいご飯で一息つきませんか?
本間素人が贈る、もう一つの大人気作ーー
『シャルロッテの行儀の悪い美食旅
〜美味しい魔獣料理〜』の第2段
【シャルロッテの行儀の悪い美食旅
〜美味しい魔獣料理〜大草原と白銀の霊峰編】
を予定しております。
ポンコツ(?)可愛いロッテちゃんが、世界中の珍味・怪味を喰らい尽くす、ハチャメチャで美味しいグルメファンタジー。
野上タ子とはまた一味違う、愛されヒロインの旅をぜひ覗いてみてくだ
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「野上夕子の探偵日誌 ファイル① 〜 天才ハッカーの青年〜 本間素人 @X-jaki
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