第22話
学園正門前は、赤と青の二色に分断された巨大な魔力の渦に包まれていた。
サザンクロス皇国の第一皇女クラリスが放つ「極大の猛炎」。
そして、エリザベートが解き放つ「絶対零度の氷華」。
二つの衝突する魔力が大気を激しく振動させ、周囲の観客や騎士たちは恐怖のあまり後退を余儀なくされていた。
「ハハハ! 素晴らしい魔力だ、エリザベート! 噂通りのバケモノだな!」
クラリスは大剣に赤熱する炎を纏わせ、地面を蹴った。
人間離れした脚力により、一瞬でエリザベートの間合いへと侵入する。
「『皇国流・烈火一閃』!!」
振り下ろされた大剣が、空気を焼き切りながらエリザベートの頭上へと迫る。
だが、エリザベートは表情一つ変えなかった。
「……浅はかですわ」
エリザベートが細い指先をスッと滑らせると、彼女の前に極薄の「氷結晶の盾」が瞬時に展開された。
ただの氷ではない。俺が授けた『魔力調和理論』に基づき、クラリスの炎の波長を逆位相で相殺するように計算された、極限の構造体だ。
ガァァァンッ!!
凄まじい衝撃波が巻き起こるが、エリザベートの氷の盾はヒビ一つ入らない。
「なに……!? 私の炎を完全に殺しただと!?」
クラリスが目を見開いた瞬間、エリザベートの冷ややかな声が耳元で響いた。
「アルスを……私の愛するアルスを奪うとおっしゃいましたね? その罪、万死に値しますわ」
エリザベートの瞳が深く、暗い「執着の深海色」に染まる。
彼女の背後に、巨大な十六枚の氷の刃が展開された。それはかつて彼女が暴君として覚醒しかけた際に魅せた、絶望の殺戮術式だ。
(まずい! このままだとクラリス皇女が原型を留めなくなる……! 外交問題どころの話じゃない!)
俺は即座に二人の間に割り込んだ。
「そこまでです、エリザベート!」
俺はエリザベートの氷の刃の展開回路に介入し、精密な魔力干渉でその威力を安全なレベルまで解体・中和した。
同時に、クラリスの残存する炎魔力も柔らかく包み込み、大気中へと散らしていく。
ふっと、周囲の殺気と威圧感が霧散した。
「アルス……? なぜ邪魔をするのですか? あの不躾な泥棒猫を、永遠に氷漬けにして差し上げようとしたのに……」
エリザベートが不満そうに唇を尖らせる。
「エリザベート、落ち着いてください。皇女殿下を害せば両国の戦争になりかねません。それに……俺は誰にも奪われたりしませんよ。俺の心も体も、すべてあなたのものですから」
俺がエリザベートの手を握り、優しく微笑みかけると、エリザベートの顔が一瞬で真っ赤になった。
「あ……アルスったら、こんな大勢の前で何を……っ! も、もう、仕方ありませんわね……アルスがそう仰るなら、今回は許して差し上げます……」
さっきまでの冷酷な氷の魔王はどこへやら、エリザベートは俺の腕にすがりつき、顔を埋めてモジモジとし始めた。
その様子を、地面にへたり込んだクラリスが呆然と見上げていた。
「な……なんだ今の術式は……!? 私の『烈火』と、エリザベートの『極氷』……まったく相反する二つの過剰魔力を、一瞬で調和させて消去したというのか!?」
クラリスは自身の手に残る微かな温もりを見つめ、驚愕に身体を震わせていた。
「おい、アルスと言ったな……お前、ただの男じゃないな? エリザベートのバケモノじみた魔力を完全に制御し、さらに私の攻撃まで無力化するとは……!」
「私はただの『調和術師』ですよ、クラリス殿下。力任せの魔力行使は、自身も周囲も滅ぼします。あなたの炎も、もっと周囲と調和させれば、より気高く強力な力になります」
俺がそう言って手を差し出すと、クラリスはその手を掴んで立ち上がった。
「面白い……! 噂以上の男だ! ルーンベルクの軟弱貴族どもとはまるで違う!」
クラリスはニッと眩しい笑顔を浮かべ、俺の顔を覗き込んだ。
「決めたぞアルス! 私はサザンクロス皇国の特使として、しばらくこの学園に滞在する! そしてお前のその『調和』とやらを私に教え込め! ……もちろん、エリザベートから奪い取る諦めもつけていないからな!」
「ちょ……クラリス殿下!?」
「また言いましたわね……! アルス、やっぱりこの女、今すぐ南極の氷床に永久封印いたしましょう!」
「落ち着いてエリザベート! 封印はダメだから!」
こうして、南方の猛炎皇女クラリスの乱入により、俺たちの学園生活は新たな波乱の幕を開けることとなった。
だが、どんな困難や強敵が訪れようとも、俺とエリザベートの固く結ばれた絆が揺らぐことはない。
更生した最凶の悪役令嬢と、彼女を支える指南役の物語は、新たな仲間(?)を巻き込みながら、さらに賑やかで愛おしい日常へと続いていくのだった。
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