第6話 休まる暇がない…
卓袱台に置いたお皿を見た宇宙の表情で、
ふわふわ卵はこれじゃなかったのだとすぐに分かった。
お皿には小さめに握ったおにぎりと、カニさんウインナーと、出来る限りふわふわに焼いたオムレツをのせていた。
「ごめん…」
僕は正座をしながら頭を下げた。
「これもおいしい」
宇宙は握り手で持ったフォークで器用にオムレツを食べながら呟くように言った。
明らかにシュンとしている。
子供に気を遣わせてしまった…
あっちゃん…
君は凄い人だったんだね。
僕は心の中で亡き従姉妹に手を合わせた。
今から色々と手続きやら連絡やらをしなければならない。
ドラマなんかだと端折られてるけど、こういう手続きが地味に一番大変だ。
僕はこれから1人の人間を預かる。
改めて覚悟が必要なのだと思った。
僕にできるか?
いや、今更弱音は辞めとこう。
宇宙が食べ終わったのを確認した僕は、自分の分の朝食をかき込むと、気合を入れて和室に向かった。
寝室兼書斎として使っている和室には、今朝まで宇宙が寝ていた布団が敷きっぱなしになっていた。
僕は布団を畳んで、部屋の反対側に目を向けた。
押し入れを改造して机にしたスペースには、この田舎の平屋には似つかわしくないモニターが3つ並んでいる。
そしてそのモニターの側には固定電話も置いてあった。
受話器を手にして短縮ダイヤルをかけた。
「はい。どうしました?昨日の観測データの遅れについての連絡ですか?」
機械を思わせる淡々とした声が聞こえた。
僕の所属する研究室の
最年少で第3天文研究室主任に就任した天才天文学者は、薄茶色の髪をいつもきっかり7:3に分けて、キラリと光る銀縁フレームの眼鏡を掛けている。
学生達から「鉄仮面」と渾名される…と聞けば、大体どんな人か想像がつくだろう。
「いえ、あ、そのデータは送れるんですが、あ、この“おくれる”は遅くなるの意味ではなく…」
「要点を絞って話してください。」
「はい。すみません。」
「データの件ではないと?なんですか?」
「あの、それが…親戚の子供を預かることになりまして…」
「子供?どういう事ですか?」
「話せば長くなるんですが…」
僕は出来る限り簡潔に経緯を述べた。
教授は黙ってそれを聞いてから声のトーンを全く変えずに聞いた。
「で?君はその子を育てるんですか?」
「はい。父親が帰ってくるまでは…」
「なるほど。分かりました。一度そちらにうかがいます。」
「はい……え!?」
「今晩にでもそちらに着くでしょう。特に夕食の支度などは必要ありません。こちらで買っていきますので。では、後ほど。」
それだけ言って教授は電話を切った。
昨日から、僕の周りが慌ただし過ぎる…。
僕は都会の喧騒から逃れたいのもあってこの限界集落まで来たというのに…
「こまってる?」
トコトコと僕の側に歩いてきた宇宙が首を傾げた。
「そんな事ないよ。とりあえず、村の皆に挨拶しに行こうか」
僕は椅子から立ち上がって宇宙に手を差し出した。
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