第17話 席は二人分
翌朝、食卓へ下りると、ミアはもうお茶を飲んでいた。
俺とセナが同時に入る。
ミアは二人を見て、すぐ杯へ視線を戻した。
「おはよう。パン、温め直す?」
「お願いします」とセナ。
「俺も」
妙に普通だった。
からかわれる覚悟をしていたので、俺の方が落ち着かなかった。
セナが皿を運ぶとき、俺の肩に指で触れた。
ミアの口元が動いた。
「よかったね」
それだけだった。
朝食の後、セナと晶の掃除をしていた。
四つの白い窪みを見ながら、俺は試験で聞いた言葉をもう一度伝えた。
セナは薄い布で石を拭き、俺へ返そうとした。
晶が温かくなった。
「また、あの店の席を取っておいてね」
声が途切れる。
五つ目が白くなった。
セナが顔を上げた。
「今は?」
俺が伝えると、彼女は驚いた後、ゆっくり笑った。
「取っておいて。私からもお願い」
「いつの分だ」
「今夜」
台所からミアが顔を出す。
「今日は薬師仲間とご飯だから、私の分はいらないよ」
「まだ何も言ってないぞ」
「席は二人分、って顔をしてた」
セナが俺の手から布を取った。
「行ってきて。いい席が埋まる前に」
俺は食堂へ走った。
おかみは人数を聞くと、いつもの三人掛けではなく、窓際の席へ札を置いた。
その夜、セナは俺の隣へ座った。
向かいが空いているのに、と言いかけてやめた。
机の下で膝が触れた。
*
交際を始めても、朝の仕事はなくならなかった。
剣を磨き、薬を補充し、靴の泥を落とす。
変わったのは、セナが隣へ座ることが増えたことだった。
俺が剣を拭いていると、彼女が新しい研磨布を持ってくる。
「古い方を先に使うつもり?」
「もったいなくて」
「使ってほしくて取ったのに」
俺は布を受け取り、刃へ当てた。
細い傷がきれいに消えた。
「すごくいい」
「でしょう」
セナは自分で剣を磨いたような顔をした。
午後、買い出しへ出た。
人の多い通りだけでなく、空いている道でも手をつないだ。
それが少しずつ普通になった。
果物屋で、セナがりんごを三つ選ぶ。
「一人一個?」
「一つはミアの分。あとの二つは焼く」
「俺の分を忘れてないか」
「二人で食べるのよ。分かってるでしょ」
分かっていて聞くのが楽しかった。
セナも、それは分かっているようだった。
家へ戻り、三人でお茶を飲んだ。
ミアが持ち帰った菓子を皿へ並べる。セナは白い鳥を窓辺へ置き直した。
「ずいぶん偉そうな顔の鳥ね」
「強いのよ」とセナ。
「何が?」
「カイルの財布に」
ミアが吹き出した。
夕方、セナが台所でりんごを焼いた。
俺は椅子をもう一つ隣へ引いた。
未来の声が何も届かない日でも、話したいことは、思っていたよりたくさんあった。
* * *
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