第13話 俺の名前の依頼、二人だけの約束

 B級の牌は、渡される前に俺の目の前で磨かれた。

 同じ日に、セナもB級になった。


 掲示板には三人で受けられる新しい依頼が並んでいた。俺が窓口を離れようとすると、受付の女性が一枚の札を持って呼び止めた。


「カイルさん。こちらも、お願いします」


 古い水路に入り込んだ魔物を、天井を壊さずに倒してほしいという依頼だった。報酬の欄は、以前なら二度見する額だ。

 条件の先頭に、俺の名前がある。


「《聞き耳》を使える剣士の組を、と依頼主から。地図も傷つけずに持ち帰ってくださるでしょうか」


 同じ窓口で、俺は一度、攻撃の技能がないからと札を返された。

 今日は、向こうから差し出されていた。


「セナとミアの分も含めて、日程を相談させてください」

「もちろんです。いつでしたら空いていますか」


 自分たちの予定を聞かれるのが、うれしかった。


 試験後の聞き取りでは、未来の声のことも話した。

 セナの晶が声を受けること、俺だけに聞こえること。だが、試験官が見たのは、俺が実際に本体を見分けて斬った場面だった。


「助言を受けることと、実行できることは別です。今回の技能は、目の前で確認しました」


 それ以上の証明を求められることはなかった。


 帰りに、白い封筒の組合へ寄った。

 席に通されると、俺は先に礼を言った。


「条件は、すごくよかったです。でも、今回は辞退します」


 女性は少し残念そうに眉を下げた。


「今の仲間と続けるのね」

「はい」

「分かったわ。地図の買い取りや共同の仕事は、また相談していい?」

「それなら、ぜひ」


 女性は用意していた条件の紙をしまい、代わりに次の調査の地図を一枚渡してくれた。


 店先で待っていたセナは、俺が出るとすぐ立ち上がった。


「終わった?」

「ああ。地図の仕事は、今度三人で相談することになった」

「加入は?」

「断った」


 セナはすぐには返事をしなかった。

 肩から鞄がずり落ちそうになり、持ち直す。


「……そっか」


 ミアは通りの向こうで、揚げ菓子を三本買っていた。

 俺たちへ一本ずつ渡し、何も聞かなかった。


     *


 夕飯の後、セナが屋根裏の窓を開けていた。

 夏に向かう風が、干した布を揺らしている。

 俺も手伝おうと近づくと、彼女が先に口を開いた。


「本当に、あの組合へ行かなくてよかったの?」

「行きたかったら、入ってる」

「分かってるけど。私に気を使ったなら、嫌だから」


 俺は布を一枚取り、紐へかけた。


「お前と組んでいたいから断ったんだ」


 セナの手が止まった。


「ミアともな。俺は今の三人で、もっと先へ行きたい」


 言ってから、肝心の部分を仕事の話へ逃がした気がした。

 窓の外を見ていたセナが、ゆっくりうなずく。


「私も」


 それだけで終わりそうになった。

 俺は最後の布をかけ、息を吸った。


「それと、今度、二人で出かけないか」

「二人?」

「買い出しじゃなくて。依頼でもなくて」


 セナはこちらを向いたまま、しばらく動かなかった。

 やがて耳の辺りを手で押さえる。


「あなた、それ、今考えて言ってる?」

「前から考えてた」

「晶の声には?」

「聞いてない」


 彼女は顔を伏せ、笑った。


「じゃあ、私も自分で返事をする。行きたい」


 胸の奥が、一気に軽くなった。

 窓からの風まで、少し温かく感じる。


「場所は考えておく」

「天空庭園の依頼が終わってからなら、街の祭りがあるわ」

「詳しいな」

「……見ておいたの」


 セナは空の籠を俺へ押し付けた。


「ほら。先に、依頼の準備」


 俺は籠を抱えて階段を下りた。

 次の仕事を、早く終わらせたくなった。


* * *


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