第3話 宝箱の番人と、まだ言っていない感想
石の兵士が斧を構えていた。
背丈は俺の倍近い。三つの宝箱の手前に立ち、顔のない頭をこちらへ向ける。
「動く石像か」
「魔力で動く守護者。古い宝物庫にはよくいるそうよ」
「よく会ってたまるか」
斧が振り下ろされた。
俺たちは左右へ分かれた。斧の刃が床へ食い込み、石像の肩の内側で歯車が回る。
速い。でかい割に、引き抜くまでが短い。
セナの氷弾が胸へ当たったが、白い粉を散らしただけだった。
「関節を狙う」
「分かった!」
俺は宝箱と反対へ回った。
石像も向きを変えた。斧の柄が柱へ当たり、欠けた石が降る。
右腕を上げるたび、肩の内部で小さな爪がかみ合う音がした。その一瞬だけ動きが止まる。
「右肩。振り上げ切る直前!」
セナの氷が継ぎ目へ刺さった。
斧が頭上で止まる。
俺は膝へ斬りつけたが、硬い音と一緒に弾かれた。手首がしびれた。普通の剣では石を割れない。
石像の肩で氷が割れ始める。
「退いて!」
セナが次の氷を放った。俺は走り、さっき斧がぶつかった柱の後ろへ入った。
柱の石像側の面には、深い傷が残っていた。
俺は鞘を床へ投げた。
石像が音へ向き直る。顔はないが、金属が鳴った方を正確に追った。
「音を追うぞ。斧で柱を叩き折らせる」
セナはすぐ杖を横へ振った。柱の向こう側へ氷片を飛ばす。
石像がその音を追って、俺たちと柱を挟んだ反対側へ回り込み、斧をもう一度同じ傷へ打ち込んだ。
柱が折れ、石像の側へ傾いた。
俺はセナを引いて入口へ転がり込んだ。石の塊が守護者の背を押し潰す。斧が床へ落ち、腕だけが何度か動いた。
露出した背中の継ぎ目で、赤い魔石が回っていた。
俺は剣を床に置き、落ちた斧を両手で持ち上げた。
重い。振るのは一度が限界だ。
セナが回る魔石を氷で固定する。
俺は斧を落とした。
赤い光が割れた。
今度こそ、部屋が静かになった。
「俺の剣じゃ無理だった」
「持ち替えればいいのよ」
セナはにっと笑い、俺が投げた鞘を拾った。俺も床の剣を拾い、その鞘に収めた。
宝箱には、古い銀貨と、小さな魔石と、乾いた布に包まれた装飾品が入っていた。
俺が銀貨を数え始めると、セナは先に宝箱の縁へ座った。
「今日は肉も大きい方ね」
*
新しい外套には穴がなかった。
それだけでも相当うれしいのに、肩を動かしても布が突っ張らない。裾が剣の柄に引っかからず、内側には小さな物を入れる袋まである。
「これでいい」
「鏡を見てから決めて」
セナに背中を押され、俺は店の鏡の前へ立った。
濃い紺色。肩の切り替えに灰色の線。着る前は少し気取って見えたが、俺にも案外悪くない。
「古い方は?」と店の女性が聞いた。
「持って帰ります。下に敷けるから」
セナが横で小さく笑った。
俺の手元から古い外套を取り、畳み直してくれる。
そのとき、耳のすぐ近くで声がした。
「その外套、やっぱり似合う」
俺は振り向いた。
セナはまだ外套を畳んでいる。唇は閉じていた。
首元の晶に、二つ目の白い曇りが生まれる。
「今、何か言ったか」
「言ってない」
彼女は俺の顔を見て、すぐ晶を引き出した。
「また熱くなった。何が聞こえたの?」
俺が伝えると、セナは口を開き、それから閉じた。
「何で『やっぱり』なのよ」
「知らない。俺が聞きたい」
「しかも先に言うなんて」
最後だけ小さかった。
店の女性が、値札を外すふりをしてこちらを見ている。
「お連れさんも、そう思ったんだね」
「……まだ、言ってません」
「じゃあ、今言ってあげれば?」
セナは俺の襟を直した。いじる必要のなさそうな場所を、一度指で押さえる。
「似合うわ。色も、ちゃんと」
今度は彼女の口が動いた。
言われた側の俺まで、鏡を見づらくなった。
「ありがとう」
「それを買うのね?」
「ああ」
店を出ると、風がまだ慣れない布を膨らませた。
セナは二歩ほど前へ出て、振り返った。
「謎の声より、今の感想の方を覚えておいてよ」
「同じ感想だったぞ」
「誰が言ったかが違うでしょ」
確かに、それは違った。
俺は歩幅を上げて追いついた。
* * *
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