第5話 レベルアップ
「レベルアップします」
その文字が浮かんだ瞬間。
身体の奥で何かが弾けたような感覚がした。
次の瞬間、目の前のステータス画面が切り替わる。
『レベル:2』
『レベルアップ報酬』
『ステータスポイント:5』
「……5ポイント?」
思わず声が漏れた。昨日までの僕には何もなかった。
力も、素早さも、体力も、魔力も、運も。
全部が「5」。
でも今は違う。たった5ポイントだけど
それでも自分で好きなように使える。
僕はステータス画面をじっと見つめた。
『力』
『素早さ』
『体力』
『魔力』
『運』
「どれに振ればいいんだ……?」
ゲームなら、攻略法があるのかもしれない。
でも僕には何も分からない。
力を上げれば攻撃が強くなる?
素早さなら速くなる?
体力なら死ににくくなる。
魔力は……魔法なんて使ったことがない。
運は――。
「……運?」
正直、よく分からない。5ポイントしかないのだから、一つに集中したほうがいいのかもしれない。
でも、もし間違えたら?僕はしばらく悩んだ。
そして――
「……全部、上げてみよう」
力に1。
素早さに1。
体力に1。
魔力に1。
運に1。
『ステータスへの割り振りが完了しました』
画面を確認する。
力:6
素早さ:6
体力:6
魔力:6
運:6
「……よし」
たった1ずつ。それでも確かに全部上がっている。
「これなら……」
少しくらいは強くなったはずだ。
そう思った。
翌朝。
僕は家を出ると、近所の公園まで走った。
「……はっ、はっ……」
走る。
「……あれ?」
少し速くなった……気がする。
もう一度走る。
「……うーん」
よく分からない。
次は腕立て伏せ。
十回。二十回。三十回。
「うーん……」
昨日と大して変わらない。
「まあ、まだレベル2だし」
そう自分に言い聞かせた。
ステータスが1上がっただけだ。
大きな変化がなくても当然なのかもしれない。
だから僕は、昨日と同じように第一門【獣】の攻略募集に申し込んだ。
集合場所には、昨日と同じように何人かのハンターが集まっていた。
「お前、昨日もいたよな?」
「はい」
「今日も参加するのか?」
「……はい」
本当は少し怖かった。でも昨日とは違う。
僕はレベル2になった。昨日より強い。
そのはずだった。
門の中へ入る。
異界の森。冷たい空気。
遠くから聞こえる獣の鳴き声。
そして――
「グルル……」
牙狼。
昨日と同じ種類のモンスターだった。
僕は拳を握った。
「今度は……」
昨日とは違う。そう思って走り出す。
牙狼が飛びかかってくる。
避ける。
「っ!」
昨日よりほんの少しだけ動きやすい。
いける。そう思った。
拳を振るう。
ドンッ!
「……え?」
牙狼が少し後ろへ下がった。
確かに昨日よりは効いている。
だけど――
「これだけ……?」
牙狼が再び飛びかかってくる。
僕は必死に避ける。
一発。二発。三発。
息が切れる。腕が痛い。足が重い。
結局、昨日と同じように他のハンターに助けてもらいながらなんとか倒した。
地面に落ちた霊魂石を見つめる。
青白い光がやけに眩しく見えた。
「……レベルが上がったのに」
僕は自分の手を見る。
「全然、強くなってない」
帰宅してから、もう一度ステータス画面を開いた。
レベル:2
力:6
素早さ:6
体力:6
魔力:6
運:6
全部に1振ったのに。
「……」
昨日は嬉しかった。
『成長限界:なし』
その文字を見てもしかしたらと思った。
僕でも強くなれる。父さんみたいになれるかもしれない。
そんなことを考えていた。
でも。
「……無理なのかな」
胸の奥が少しずつ冷たくなっていく。
僕は父さんがハンターだったことを知っている。
銀級だった。それでも、門で死んだ。
だから僕はハンターになりたくなかった。
家族と普通に暮らせればそれでよかった。
それなのに。
無色級を引いてしまった。
もしかしたら普通とは違う人生を歩めるのかもしれない。
そう思った。
でも――
「僕は……強くなれないんだ」
その言葉を口にした瞬間。
何かが終わった気がした。
僕はステータス画面を閉じる。
机の上には、今日手に入れた霊魂石が置いてある。
「……もう、門には行かなくていい」
霊魂石を見ないようにして、僕はベッドに横になった。
無色級。
成長限界なし。
そんなものを引いたところで。
僕自身が強くなれないのなら――
僕の人生も、結局は変わらない。
そう思いながら、目を閉じた。
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