作品を投稿されている方、執筆活動お疲れ様です。
読み専の方も読んでいただけて感謝しております。
行き詰まっていた時に一話だけ書いてみた話があったのですが、どうも続きが書けそうにないので供養のためにSSという形で発表させていただきます。
他の書き手の方が近況ノートで上げていらっしゃったのを見て自分でもやってみたいと思っていたので、この機会にということで。
それでは、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
真上にあった太陽が西に向けて傾きかけた頃、爽やかな風が吹く草原地帯を慌ただしく駆ける三人の姿とそれを追跡する五つの影————。
「……パパ、ママ……! もう、走れない……ッ」
母親に手を引かれた7、8歳ほどの少女が息も絶え絶えといった様子でへたり込んだ。
「キアラ、立って! 逃げないと……!」
「…………」
キアラと呼ばれた少女を母親が立ち上がらせようと促すが、キアラは首を振って拒絶の意を示した。
「あなた……!」
「…………!」
妻に悲痛な顔を向けられた夫は唇を噛みしめ、辺りを見回した。
「————お前たち、|あそこ《・・・》まで走ってくれ! 俺がなんとかする!」
視界の端に入った大木まで妻と娘を誘導した夫は荷物からショートソードを取り出し、白刃をシャッと鞘走らせた。
「……来るなら来い、家族は俺が守る……‼︎」
恐怖で震える切っ先を向けた先には、牙を剥き出し|涎《よだれ》を垂らす灰色の恐怖。
五頭のダイアウルフは、大木を背にしてうずくまる母娘と妻子を守るように剣を構える夫を扇状となって取り囲んだ。
「グルルルル……ッ」
扇の中心に陣取った群れのリーダーと思われる個体が低く唸り声を上げ、残りの四頭が今にも飛び掛かろうと後ろ足に力を込める。
「ママ、怖いよぉ……‼︎」
「大丈夫、大丈夫よ、キアラ……!」
怯える|娘《キアラ》を安心させるように抱きしめた母親は|藁《わら》にもすがる思いで口を開いた。
「【……このロセリアの地に数多の災厄が降りかかる時、東の空より|紅《あか》き翼を携えし一人の騎士が降臨され、その比類なき神通力によって民は救済されるであろう】……‼︎」
「ママ……、それって、この前お話してくれたおまじないの……」
「————やれやれ、せっかく気持ちよく昼寝してたってのに獣臭いったらありゃしないねえ……」
その時|気怠《けだる》げな声が響き、次いでしなやかなシルエットが三人の前に進み出た。
「おやおや、どいつが相手かと思えば討伐しても大したカネにもならないワンコどもが五匹かい。ツイてないねえ」
大木の裏側から姿を現したのは長身の女であった。
一切の無駄の見られないしなやかな肉体を|濃紫《ダークパープル》のスーツに包み、ウェーブのかかった|金髪《ブロンド》に大きな黄色のサングラスが一等眼を引く。歳の頃は三十くらいだろうか、眼前の肉食獣の|それ《・・》よりも鋭い眼光が強烈だが、誰もが美女と形容するであろう容姿である。
「……だ、だあれ……?」
キアラに呼びかけられた金髪の女はトレードマークのサングラスを額に持ち上げて、透き通るような|空色《スカイブルー》の瞳を露わにした。
「残念だけど、アタシは『伝説の騎士』なんて高尚なモンじゃないよ。ただの冒険者さ」
「冒険者さん……?」
金髪の女は眼を丸くするキアラに魅力的な笑みをお見舞いすると、剣を構える父親の前に進み出た。
「家族を守る男っぷりは大したモンだけど、そんなに腰が引けてちゃワンコどもの硬い毛並みは斬れないよ」
「……なんだと————ッ⁉︎」
「キャア————ッ⁉︎」
金髪の女が右足のヒールをトンと打ち付けると親子の足元の地面が柱のように盛り上がり、三人を大木の上方へと|誘《いざな》ってしまった。
『…………』
せっかく追い詰めた獲物を突然、遥か頭上へと移されたダイアウルフたちは呆気に取られていたが、気を取り直したように金髪の女へと照準を合わせる。
「————ガウッ‼︎」
群れのリーダーの号令と同時に四頭のダイアウルフが一斉に襲い掛かった。
「うーん……、いたいけなお嬢ちゃんの前で血を見せるのは教育上、あんまりよろしくない、か————『|泥沼《パンターノ》』」
先ほどよりも強めに右足を踏み鳴らすと、半径5メートルほどの地面が急激に|泥濘《ぬかる》み出した。金髪の女の足元を除いて。
リーダーを含めた五頭のダイアウルフたちが底無し沼と化した地面にズブズブと飲み込まれていく。
「ッウオォォォン————……」
瞬く間に姿が見えなくなったリーダーの遠吠えが辺りに|木霊《こだま》する中、金髪の女が左足を二度打ち付けると泥濘んでいた地面が元の硬度を取り戻し、親子を乗せた土の柱が緩やかに下がり始めた。
元の地面へと降り立った三人は先ほどの恐怖と金髪の女の鮮やかな手並みにしばらく声を出せない様子だったが、
「……た、助けていただいてありがとうございました。……|貴女《あなた》は……?」
恐る恐る口を開いた父親に金髪の女は鋭い視線を向ける。
「お嬢ちゃんは仕方ないけど、アンタは立派な大人だろう。人に名前を尋ねる時はまず自分からじゃないのかい……?」
「し、失礼しました! 私は商人のシモーネ、そして妻のエレナと娘のキアラです!」
金髪の女の謎の迫力にシモーネは背筋をピンッと伸ばして高らかに答えた。
その様子に満足したのか金髪の女はウンウンとうなずいた後、両手を腰に当てて豊かな胸を張った。
「そうかい。アタシはエヴァンジェリーナ・ファルジーニ。見ての通り、ただの『S級』冒険者さ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
以上になります。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!!