いよいよ。明日。
栄養ドリンク五種がハイドランジアで発売する。
この栄誉ドリンク五種は王都ムーランマグノリアと同時発売する。
栄養ドリンク五種はハイヤーン商会にとってまさに社運を賭けた商品だ。
そして2代目会長のアキンドゥラの威光を示す商品でもある。
「だからてっきり決起集会でもやると思っていたんだが」
宴会でもするのかなと思っていたんだが。
そうしたらお姉さん呼び放題だと思ったんだが。
ハイヤーン商会本社の会長室に呼び出される。
「残念ながらそれは無くなりました」
「無くなった!?」
執務机に座るアキンドゥラは溜息をつく。
今日も綺麗だ。スーツ姿の美女は麗しい。
「ハイヤーン。あなた。知ってましたか」
「なにを?」
唐突な問いに首を傾げる我。
「―――王都の情報が昨日いくつか届きました」
「ほう。王都」
ムーランマグノリア。歓楽街が特に色々素晴らしいと聞く。
一度は行ってみたい。
「残念ながら王都での同時発売は正式に見送らせていただきました」
「そうなのか」
それはなんとも残念だ。
アキンドゥラは頭を抱えるようにして、それから顔を上げた。
いったいどうしたというんだ?
でも憂い顔の美女というのは、それはまた、それでいいものだ。
かつて助手のラァダがそんな顔をしょっちゅうしていた。
あれはあれで良いものだった。
「……王都の闇を知っていますか」
「闇か。そういうのはどこにでもあるものだろう。ハイドンランジアにもある」
光があれば闇もある。そして光が強いほど闇は深くなる。
生と死のようにそれらは一心同体だ。決して別れることも片方が消えることもない。
それが世界だ。
「ええ、ですがハイドランジアの裏社会は王都の闇に比べたら、最下層の小競り合いですら参加できないでしょう」
「最下層?」
「王都の闇は、支配層。上層。中層。下層。最下層という風に区分化されているの。そして個人ではなく組織単位が基本なの」
「組織単位?」
「ええ、組織単位。もうそこから規模が違います」
「つまりよくある個人で成り上がるというのは」
「その組織内で成り上がることは出来ます。ですが王都の闇それ自体では、ほぼ不可能でしょう。組織がなければ王都の闇を生きられません」
「なんとも恐ろしいな」
王都の光があまりに強過ぎるから、その闇は深淵となるか。
「ええ、とても恐ろしいです……とても……」
「だがその王都の闇がいったいどうしたんだ?」
話の筋がよく見えない。
「王都で本格的に商売するにはその王都の闇は無視できない問題です。実際ハイヤーン商会も王都に古くからあるコダクサン商会の協力を得て、栄養ドリンクの大々的な発売機会を与えられました。もちろん。魔女のチカラというのもあります。ですがコダクサン商会と懇意にしている王都の闇の組織の助力もあったのは事実です」
「ふむ。まあ清濁呑まなければ商売はやっていけないのは分かる」
そのコダクサン商会はタサン公爵家がスポンサーをしている。
当然ながらタサン公爵家もその組織のことは知っているはずだ。
「今……その途方もない王都の闇をあるひとつの新興組織が凄まじい勢いで蹂躙し、飲み込もうとしています」
「ほう。新興ということは新しく出来たばかりの組織か」
「ええ、全く何も無いところから生まれたその組織は、予想だにしないほどの凄まじい武力を有しており、それで瞬く間に最下層から一気に上層へと上がっていき、今では支配層すら手中に収める勢いです」
「なんなんだその組織」
唐突にいきなり現れる脅威とか。まるでウォフみたいだな。
「その組織が上層にあったコダクサン商会と懇意にしている組織コツハミジン倶楽部を壊滅させてしまいました」
「なんと……!? それで栄養ドリンクの王都販売が……潰れたのか」
「はい。結果的にはそうなります。ですが、これは」
アキンドゥラはそこで言葉を止めて深く深くため息を吐く。
「なんだ?」
「これはひとつの不幸な事故なのです。偶発的に起きてしまった事故で、壊滅させた組織は何も悪くないのです」
「? そうなのか?」
「はい。だからこそ、困っているんです」
「それはそうだな」
なんだ? このアキンドゥラの言い辛そうな表情と戸惑った発言。
するとアキンドゥラは我を見た。何か言いたそうな顔をしてやめる。
「本当に知らないようですね」
「なにがだ?」
「ウォフさんからの手紙とか来ていないんですか?」
「ウォフ? いいや。何も来てないぞ」
なんでここでウォフ? 確かにあいつは王都に居るが?
我は大きく首を捻る。
そんな我の様子を一瞥し、アキンドゥラは懊悩を極めたような表情で言った。
「その突如現れ、凄まじい勢いと武力でもって次から次へと傘下を増やし、王都の闇を飲み込むように支配しようとしている……組織の名は『夜王会』と……言います」
「ふむ。夜王会―――夜王会? おい。ちょっと待て。それって、いやまさか……」
「ええ、その組織を率いているのはウォフさんです」
なにやってんだあの野郎。