ハイドランジアの路地裏。
「……妙な気配……」
ドラコナは周囲を見回す。
オレンジのややクセのあるだけど整えられた髪。
パッチリとした青い瞳。それから可愛らしく清純っぽく整った顔立ちの少女だ。
年の頃はまだ十代。それでも成人はしているだろう。
頭部から生えた黒く長く鉤爪のように歪曲した黒い角がとても立派だ。
服装は地味な灰色のローブ。
ただローブの隙間から赤いヒラヒラとしたスカートがチラリと見えた。
そして少女には似つかわしくない赤い大剣を背負っていた。
その赤い大剣を難なく引き抜く。
武骨で飾り気は無い。
燃えるような刀身だがその切っ先は丸くなっていて、まるで焼けた舌のようだ。
「そこかっ」
ドラコナは剣を振るう。凄まじい速度で斬ると、ボッと何かが燃えて消し炭になった。
「……手応えがない?」
不思議そうにドラコナは首を傾げ、大剣を仕舞った。
気が付くと、ハイヤーンはまるで狩られたウサギのように手足だけ縛られていた。
そして担がられていた。
「なんだっ!?」
「おぷわて。起きた?」
「起きたって、おまえはバダディルマっ!?」
エルフの少女バダディルマはニコっと笑う。
だが彼女はエルフではない。これは擬態だ。
その正体はドルスマキナという機械生命種族である。
「ががらく。そうだよ」
「そうだよじゃないっ、なんだ。これは何の真似だっ?」
「でいかす。何の真似って約束したじゃん」
「約束?」
「えおなざ。忘れてる。またシードル亭で奢ってくれるって言ったじゃん」
「言ったか?」
「あぷんく。契約したよね」
「あっ……だがそれは女をあてがうのと引き換えだ」
「こんくま。女いるよ?」
「いや生身の女だ」
「るるぎこ。しょうがないな。ちょうど最近、知り合ったのがいるから、その女を紹介するよ」
「本当かっ!?」
「もぷぽか。うん。じゃあ、そこに行くよ」
「ちなみにどんな女だ?」
「ぬいたち。どんな……?」
「見た目だ」
「ああやよ。見た目? スペック?」
「ほら、あるだろう。胸がでかいとか尻がでかいとか可愛いとか美人とか」
「わんがぱ。なる。それなら胸がでかくて尻がでかくて可愛くて美人だよ」
「でかしたっ!」
歓喜するハイヤーン。
バダディルマはハイヤーンを縛って担いだまま、ウォフの家へ。
そこから転移ゲートを通る。
「ん? ここは?」
やたら綺麗な廊下だ。
バダディルマは構わずその突き当りの部屋のドアを開けた。
「ぎずんば。シェシュちゃんっ」
「あ?」
そう睨みながら威嚇の様な返事をしたのは、テーブルに組んだ脚を堂々と乗せ、ソファに座りながら本を読んでいる女性だった。
赤いメッシュが目立つ短く荒々しい金髪。
黒い角。青く眼つきが鋭い。でも小柄な顔立ちの美女だ。
右耳と左耳にピアスを三つずつしている。
赤黒のシャツと所々破れたズボン。それと腰に鎖を巻いていた。
「シェシュって―――」
「なんだ。てめえかよ。ん? それは晩飯か」
「ごろじぎ。うん。そう。晩飯!」
「違う!」
晩飯が叫んだ。