緒賀けゐす(@oga-keisu)さんの自主企画『夏休み短編小説大賞2026』に作品を出しました。
https://kakuyomu.jp/users/oga-keisu/news/2912051607707884015
こういう企画があると筆不精の身でも重い腰を上げやすくなってありがたいですね。面白い作品も読めるし。
・企画について
わたしの中で『けゐす杯』という名で定評のある自主企画で、毎年楽しみにしています。主催者である緒賀さんは『筺底のエルピス』というライトノベル作品の、非常に強火のファンの方です。同作は今月中旬に最終巻である9巻が発売されるので皆様読むといいと思います。紙だと手に入りづらいので電子書籍がいいかも。わたしは2巻と4巻が好きです。好きな停時フィールドはアディピスコル、エース・シャター、そして2つ目の蟬丸です。
「冷やし中華はじめました」「麦わら帽子のあの子」「10年前の夏」の3つのテーマが提示され、それぞれ話を考えたのですが、するっと出てきたのが唯一「10年前の夏」でした。というか他のテーマでどんな話を作ればいいんだ??? 10000字やぞ??? と思っていましたが、他の人の作品を見ると、なるほど………その手があったか………という気持ちになって面白かったです。特に「冷やし中華はじめました」。
・『魔法が解けるその日まで』について
折しもわたしの愛するロックバンド・UNISON SQUARE GARDENのアレがアレしてツイッターのユニクラの皆様が大変なことになっており、同時代的なこの出来事をベースにキャラクタとストーリーを書き起こしました。いろんな人のツイートとかnoteを読んだり、活休にあたり自身の思うところを混ぜ合わせたりした上、10000字の物語として出したときにまあ読んでる側も納得できるだろうという形に整えたものが、今回提出した『魔法が解けるその日まで』になります。
作中の小ネタについてはユニクラの皆様なら目を通せば一瞬で分かると思いますので特に解説はしませんが、各章題はユニゾンの楽曲のタイトルから引用しており、個人的なセトリとして楽しめるものにしたつもりです。我らがセトリおじさん(って作中で出したかったんだよな……)のセンスには敵うべくもありませんが、結構いい感じに聴けるものと自負していますので、ご興味のある方はぜひ。
なんと全部youtubeのユニゾン公式チャンネルで聞けます。
最後に企画の上限に引っかかるため削った部分を乗せます。side:有華というやつです。
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5.5.アナザーワールドエンド
マルチ商法、さもなければ宗教の勧誘。
塁ちゃんから電話が来たとき、真っ先に浮かんだのはそれだった。
声優を目指して入った専門学校は2年経っても何も芽が出ず、ただ時間を浪費しただけだった。教室には高校時代よりも余程明確で残酷なカーストがあった。1割の選ばれし者と、3割の真面目だけど才能のなかった子たちと、6割のクズ共。言うまでもなくわたしはクズ側だった。
与えられた課題もロクにこなさないまま、気の合う仲間たちと池袋に行ったり、コミケに出たり、ニコ動にラジオドラマをアップロードしたりした。再生数は100回にも届かなかった。ここから世界が変わるんじゃないか、なんて話しながら投稿ボタンを押したときの高揚感は、その瞬間をピークに下がり続け、最終的にはなかったことになった。
学校の伝手で受けたオーディションは何一つ手ごたえがなくて、ただただ自分の才能のなさを見せつけられるだけの時間だった。わたしより100倍美人で、100倍演技が上手くて、100倍努力しているスターの原石に挟まれて、しゃんと前を向けるほどの厚顔無恥にはなれなかった。
わたしはごく自然な流れで外に出ることをやめ、実家の部屋に閉じこもり、インターネットの世界で過ごすようになった。
ユニゾンの活動休止を知った時、ああ、ちょうどいい区切りだな、と思った。
学生時代からずっと追いかけてきたキラキラのバンドが、わたしの支えだった。彼らの音楽がわたしの特別になったのは、たまたま原作から追いかけていたアニメの主題歌が『桜のあと』だったこととか、舞洲の15周年ライブの一番最初にわたしの一番好きな『お人好しカメレオン』を演ってくれたこととか、いろんなことが上手くいかなくて全部やめちゃおうって思った瞬間にサブスクから『Simple Simple Anecdote』が流れてきたというような、沢山の偶然の積み重ねだった。
飽きたらやめるって田淵さんのブログに書いてあったときから、いつかそんな日が来ることは予想していた。むしろそれを心のどこかで望んでさえいた。自分がいつ終わるのかさえ、わたしには、自分では決められなかったのだ。
配信が終わり、ライブの感想をツイートしたとき、塁ちゃんからの電話が来た。
塁ちゃんは昔から美人で、ファッションや化粧にも詳しくて、ずっとわたしの憧れだった。わたしと同じ音楽を好きでいてくれるのが奇跡だと思った。美容の道に進むんだと聞いた時から、わたしは気後れをして、うまく話が出来なくなった。
旅行に行こうと言われたとき、ああ、やっぱり、と思った。
10年も連絡を取ってなかった相手から連絡が来て、素直に受け止めるほど子供じゃない。悪の総本山みたいなところに連れていかれて、めんどくさい話になるんだろうな、と思っていた。
塁ちゃんは本当に旅行に連れて行ってくれた。
いやいや意味わかんないよ、何考えてんの、しかも日程10日? 旅の準備なんてしてるわけない。引きこもり歴が長くてバイトもしてなかったのでそういう点では楽だった。塁ちゃん、職場から鬼電されてめちゃくちゃ頭下げてたからね……。
で、だんだんわかってきた。
マルチ商法でも宗教でもない。
大きな車を運転して、おいしいご飯を堪能して、こんなわたしに何度も話しかけてくれる彼女は、ただのわたしの友達だ。
――あたしも、死にたかったんだな。
7月29日の夜、綺麗な星空の下でそう聞いた瞬間、心が冷えるのを感じた。
どうしてあなたがそんなことを言うの。
あなたみたいに綺麗で、ちゃんと生きてる人が、そんな悲しいことを言わないで。
反論しかけた瞬間、わたしも気付いた。
死にたいって言葉を聞かされた側が、こんなにも悲しい気持ちになるんだって。
本気で死にたかったわけじゃない。わたしは何をしたって中途半端だ。
半端な覚悟で手を染めて、やめただけの馬鹿な女だ。
死ねない理由を見つけ出せとあの人たちは歌っていた。
この悲しみを誰かに味合わせないために、わたしは、例え冗談であっても、終わりを望むことができなくなった。
だから多分これからも、わたしは、生きていく理由を探し続けるのだ。
心のもう半分で、いつか来るそのときを願い続けながら。
閉塞感で息ができない毎日の中でも輝いて見えるもの。
あの日見上げた、明るい夜空に見えた星。
――また、行こうね。
あの長い逃避行のような旅行の日々は、間違いなく、幸せな時間だった。