※日々の習慣が私をつくり、昨日の私がいまを生き、今日の私があすからの日々をつむいでいく、そんなコードにはうんざりだ、私は私で私が私だ、彼らはみな死に、私が私を生きている。
481:【アイツ】
思春期のときにいくひしの中核をなしていたアイツの影がさいきん、とみに感じられる。いつだって胸中にわだかまっていた「××」の塊だ。「××」の塊を殺したことでいまのいくひしがあると言っても過言ではない。なのにアイツがさいきん蘇えってきたように感じられてならない。また闘わなければならないのだろうか。鬱屈だ。
482:【スーツ5】
海外ドラマ「スーツ」のシリーズ5を観はじめた。四年くらい前からかな? いくひしが最も参考にしつづけている脚本のドラマである。日本のドラマを観ていないのでどうなのかは分からないけれど、ここまで複数の物語を織り込み、圧縮させているドラマはないのではないか。盗み放題の技術が溢れている。まるで、というかまさに、サービスタイムみたいなドラマである。おもしろーい!
483:【生き残り】
人工知能が毎秒一万個の物語をつむぎだせる未来にあっても、けっして編みだされることのない物語をつむぐことでしかこれからさきの作家は生き残れない。それはオリジナルという意味ではない。本来あってはならない組み合わせの奇跡的な融合である。
484:【しってた?】
「あたまのなかだと何回だって殺せるんだよ。おなじ人を」
485:【もったいない】
「毛糸をほどいていくみたいに、どんなにていねいに皮膚を裂いて、肉を分けて、血をすくっても、人間って一回しか殺せないんだよ。もったいないね。もったいないから、きょうはここまで」
486:【美人】
最高の美人ってどんなだろうなーって考えてて、いままで恋してきた人たちのこと思い浮かべてみたいんだけど、なんだかんだ言って一番は首がないのがいいなーみたいな。でもそれはちょっと姑息というか、例外的な存在な気がしないでもないので、じゃあそこは妥協して、のっぺらぼうかなーみたいな、そういうの。スタイルよくてのっぺらぼう、理想です。
487:【こじらせ】
「はっきり言っとくと、セックスしたことあるやつは愛だの絆だの、人間賛美じみた星屑の欠片を一文字たりとも口にしないでほしい。おまえら人間捨てて野獣化したヤバーンジーンでしょ、その口で性器にキスして舐めて、充血させて、自らの性器で引っ掻いたり、揉みしだいたりしたんでしょ、人間やめたくせにきれいごと並べないでほしい、性欲に流されたヤバーンジーンのくせにいっぱしのオトナぶるのホントやめてほしいんだけど、虫唾が走るというか、ウジが湧く、ハエたかる、ハイエナどもが、そこになおれ犯すぞ、おまえらだけホントマジでずるい、たけのこ」
488:【おしらせ】
「下品だろ? 醜いだろ? 浅ましいだろ? おぞましいだろ? これが俺の根っこのほうにあるものの片鱗だ。セックスと性欲を、殺人とか結婚とか、デートとか、恋愛とか、なんでもいいが、なにかしらキラキラしたものに置き換えてみせれば、大方俺の根っこにあるものにちかづく。たとえば今ここで、想像でいい、何かこの世でもっとも残酷な所業を思い浮かべてほしい。それは十中八九すでに誰かが行っている。場所が地球上であり、物理法則の及ぶはんちゅうにあるできごとであれば例外はないと断言していい。いいか、どんな残酷なことであれ、すでに誰かがやっている。なぜ俺はしてはならないんだ? 誰かがすでにやっているのに、どうして俺はやってはいけないんだ? ずるいだろ。そんなのはだって、ずるいだろ。俺だって、人生の絶頂にいる男を監禁して、いずこより拉致してきたガキにその男の世話をさせ、情を抱かせてから、男に問いたい。『今からおまえの娘か、このガキのどちらかを犯す。十秒以内に犯されてもいいと思うほうを選べ』男は悩むだろう。しかし十秒は確実に経過する。男が選べなくともいいし、どちらかを選んでもいい。いずれにせよ、目のまえでガキを犯す。どちらを選んでもガキを犯す。男が娘を選んだならば、男は自身のふがいなさを恨み、ガキへの呵責の念に苛まれるだろうし、男がガキを選べば、娘よりもたいせつなガキが目のまえで犯される。男の尊厳はいちじるしく損なわれるだろう。ここまでが序章だ。男の世話は継続してガキに任せる。男は以前にも増してガキに情をそそぐだろう。こちらへの憎悪を募らせるたびに、ガキへの情が増していく。二度目の問いの時間だ。『今からこのガキを犯す。しかし俺も悪魔じゃない。犯す役を選ばせてやる。俺か、おまえかだ』男に選択の余地はない。その日、男は自らの性器を用いて、ガキをつらぬく。すまない、すまない、と謝罪の言葉を繰り返しながら、無様に腰をふりつづける。俺はそれをカメラ片手に黙って見守る。神聖な行為だ。余計な野次は飛ばさない。この日以降、男はことあるごとにガキと肉体関係を結ぶようになる。孤独な世界で、不条理を分かち合える存在は希少だ。心身ともにガキと男は依存しあう。仕込みは上々だ。三度目の問いに移る。俺は問う。『今からおまえの娘か、そのガキのゆびを切断する。十本すべてだ。一本につき三時間ほどかける。三十時間の長丁場だが、可能なかぎり薄く輪切りにしていく。腹が空くようならばそれを焼き、食わせる。選ばせてやる。娘とガキ、俺はどちらの指を切ればいい?』男は迷うだろう。しかしそんな男に、ガキが助言する。『わたしを選んで。だいじょうぶ、死にはしないから』けっきょく男は選ぶことができなかったが、俺はやさしいので、ガキの頼みを聞き入れ、男の目のまえでじっくり三十時間をかけて、ガキの指をすべて輪切りにした。むろん、その日の食事はすべてガキの指のステーキで、すべて平らげるまで、新しい食事を与えなかった。男は懺悔のつもりなのか、自らの指を食いちぎってその場を耐えしのんでいたようだが、失われた指は一本だけだった。ここまでくると、男もガキも、なかなか愉快な反応を示してくれなくなる。もういいかと思い、俺は男へ問いを投げかける。『選ばせてやる。ガキと娘、どちらかを殺す』男とガキはすでに臍を固めていたようだ。互いに手を繋ぎあいながら、『彼女を殺してくれ』男はガキを示し、言った。心中するつもりなのだろう。死んだガキのあとを追うつもりなのだろう。いい判断だ。俺はそんな彼らを褒め称えながら、何か月も前から用意してあった、娘の解体映像を牢獄いっぱいに映しだす。生きたまま腸を掻きだし、洗浄した。死したあとも解体をやめず、切り分けた肉をシチューにし、それを男の食事として差しだすところまでを、三分クッキングの要領で上映した。男はその場に声もなくうずくまり、しきりに頭髪をブチブチと毟りだす。男への問いはもうない。だから俺はここで最後の問いを、ガキへと向けた。『選ばせてやる。おまえと、その男。俺はどちらを殺せばいい?』ガキは立ちあがり、逃げるように俺のもとへくる。『なんで、言われたとおりやったじゃない、さっさとソイツ殺してよ』男はなおも頭髪を毟りつづけている」
489:【この程度】
「言っても、アイツの残虐性なんてせいぜいがその程度のものだ。世の中にはもっと残酷でえげつない所業を、想像するまでもなく実行しているやからが確実にいる。生きた赤子でサッカーをするなんて自慢にもならない。そういうやからが確実にいる。ぼくらはそんな世界に、地続きどころか、まったく同じ世界に生きていて、じぶんの作品が新人賞に受賞しないだの、世に認められないだの、そんなことで悲劇のヒロインぶっている。気づいているかい。たぶん、それがもっともえげつなく、残酷で、むごたらしい所業だって」
490:【五七五・七七】
「下を見て、じぶんの不幸を誤魔化すな、上を目指して嘆き哀しめ」