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いくひ誌。【401~410】

※微々たる負荷に耐えかねて弱音を吐くおのれの卑しさがなによりもっともいやらしい。


401:【ムっ!】
いくひしは今「無」を感じている。しかし「無」を感じているのだから、感じるなにかしらの主体があるために「無」ではない。「無」ではないのだから「無」を感じているのではなく、「無」を感じている〈私〉を感じているのだが、その〈私〉が感じているのは「無」なのだから、いくひしは今「無」を感じている。私は無であり、無は私の感じる私であり、すなわち私は私を感じている。いくひしは今、〈私〉だ。


402:【そうではない】
加わる負荷が微々たるものゆえ、つらいのだ。


403:【ネクステージ】
グーグル、そろそろ分裂するんじゃないか? いや、なんとなく。


404:【批評家】
小説に限って言ってしまえば、作品とはそれ単体で存在するものではない。仮に完成形というものがあるとすれば十割、読者によって読解され、展開され、構築された世界がそれにあたる。とすれば、批評家というものは、作品を批評しているのではなく、自身の構築した世界を批評しているのである。この種を育てたところ、こんな盆栽ができた。それをして、もっとこういうところがあればよかったと嘆いたり、或いは、ここのところがほかの種とこれこれこのようにちがっている、すばらしい、と感嘆する。もしほかの誰かがすばらしいと謳った種を差して、あんなものを褒めるとは何事かと憤ったり、あれのどこがすばらしいのだ、と反論することに懸命になる者があるとすれば、それは単にその者の構築した世界がお粗末だった顛末にその結論を集約できる。アイツらがすばらしいと感激するような世界を私はつくるだけの想像力がなかった。その者はそう告白しているのである。なんて謙虚なのだろう。なにもそこまで卑下せずとも。もしそういった批評家を見かけたならば、ぜひともこう声をかけてあげてほしい。「いやいやあなたの世界もなかなかですよ。ただしすこしばかり、水を差しすぎです。もうすこし控えたほうが育みますよ。あなたの世界が色濃くゆたかに。水は差すものではなく、向けるものです。私はすばらしいと思いました、あなたはどうでしたか?」


405:【つまらないおとな】
お酒は飲まない、タバコも吸わない、博打はしないし、女も買わない、男にだって貢がない、ゲームはトランプがやっとこさだし、できたとしてもマリオカートが関の山、そのくせ免許を持たずに車は後部座席が指定席で、でかけるときの愛車は折り畳みのちっこい自転車と相場がずっと決まっている、身体を動かすのは好きだけれどスポーツは苦手で、集団競技なんてもってのほかだからボールだけが友達さ、なんて言ってみたいきもちがないわけではない、そのくせ友達を蹴ったり打ったり放ったり、そんな真似はしたくないので、長年距離を置いている。我ながら思う、つまらないおとなになったなぁ。でもほんとうはただ、おとなになれなかっただけなんだ。おとなっておもしろいですか?


406:【退化のち同期】
日々欠かさず鍛練を積み重ねることは重要だ。しかしある一定の期間、まったく鍛練しない空白の日々を設けることもまた同じくして重要だ。日々鍛錬を重ねると、徐々に脳内の理想と現実が乖離していく。それは微々たる狂いではあるのだが、肉体の性能が僅かに現実に先行し理想にちかづいてしまうのである。これを放置しておくと、のちのち重大なスランプに陥る。できると思ったことができなくなるのである。熟しきった肉体をいったん常温に戻す。一見それは退化したように感じるが、じつはそれが本来のじぶんの性能なのである。せっかく温めた肉体を冷ますのには思い切りがいる。積み重ねてきたものが崩れ去ってしまうのではないかという怖さがつきまとう。しかし現実と肉体を同期し、つぎなる理想へと重ねあわせていく過程が成長には欠かせない。さらなる高みに昇るためには、足場となる段、落差が必要なのである。


407:【だから】
空白の日々は無駄ではなかった、断じて!


408:【直視しろ】
断ずるなクズが。無駄なんだよ。いくひし、おまえの費やした空白の日々はおまえが紡げたはずの幾重もの物語たちを無駄に殺し、消し、流した、クソみてぇな時間だ。目を逸らすな、それが現実だ。じぶんを肯定することに躍起になるな。後悔しろ。悔い、改め、そして絶えず望め。おまえが虚無に浸かり得たものはただそれしきの絶望だ。


409:【ひどいと思う】
どうしてきみはすぐそうやってひとを傷つけること平気で言えちゃうのかなぁ、マンちゃんのきもちとか考えたことある? え? 誰よりよく考えてるって、じゃあどうしてあんなひどいこと言ったの。マンちゃん泣いてたよ。ウソだね、って、どうしてあなたが決めつけるの。見たって、え、泣いてたでしょ? 泣いてない? むしろ笑ってた? なんで? マゾなの? あ、ふうん、そうーなんだぁーへぇー。


410:【惑わない星】
石川雅之さんの漫画「惑わない星」が異種格闘技すぎて悟りを拓けそうなレベル。女の子がかわいくておっさんが憎めない、ただこれだけですべての物語はその質に関係なくおもしろくなるのではないか。留意すべきはかわいい女の子ではなく、女の子がかわいい点であり、また憎めないおっさんではなく、おっさんが憎めない点である。かわいくない女の子だってかわいい瞬間はあり、また憎たらしいおっさんでもけっきょくなんだかんだで許せてしまう瞬間というのはあると思う。そういうのの積み重ねによって物語は魅力を磨かれていくのではないか。漫画の真理を垣間見た気がしたよ。物理×アイドル=天体の擬人化。考えついても描かない、ようやるわい、とうなるほかない。

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