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平安時代を語る⑯(「月が消えた夜に――」連動企画)最終回

今回は「月が消えた夜に――」の主人公である陸奥篁こと小野篁について触れたいと思います。

実のところ、小野篁という人物については、それほど詳しいことはわかっていません。
当時は歴史書といっても、きちんとしたものが残されてはおらず(書かれていたかもしれないけれども、消失してしまっている可能性が高い)、謎の人物が多かったりします。

当時のことが書かれているものとしては、帝についての記録である「続日本後紀」や朝廷の公卿たちの官職についての記録である「公卿補任」といった史書くらいであり、誰が何をしたといった話が詳しくのこっているわけではありません。

ですので、小野篁の話に関しても、ほとんどが続日本後紀に書かれている帝に関する『出来事』から読み解いていくしか無かったりします。伝記とかあればいいのですが、小野篁に関する伝記本は私の知る限りではありません。

そんな小野篁の人生は、二部構成だと考えています。

第一部は、陸奥国から帰京して文章生となって、弾正台の役人から出世コースをひたすら駆け上り、遣唐使に選ばれて、遣唐副使として唐に渡る直前で乗船拒否をして唐へ行かなかったことで流罪になったところで終了。

第二部は、罪を許され放免となり、平安京へと戻ってきたところからはじまり、東宮学士となり、式部少輔と兼任し、蔵人頭、左中弁と元罪人としては異例の出世を果たしていくミラクルストーリーですね。

東宮学士というのは、皇太子の家庭教師的な役割ですし、蔵人頭とは天皇の秘書官的な役割の長ですから、篁がいかに帝から信頼されていたのかがわかりますね。

なお、この時の帝は仁明天皇であり、仁明天皇は嵯峨天皇の息子であることから、この時もまだ嵯峨天皇(太上天皇)の影響力は強かったのでしょうね。また篁が東宮学士になる少し前には、承和の変が起きていて藤原良房が朝廷で力を持とうとしていた他家を排除していたりします。

「月が消えた夜に――」では良房は篁の友人のちょい役で登場していますが、実際には藤原北家の力を朝廷内で揺るぎないものにしたものすごい人なのです。

篁は出世街道をひたすら上り続けて、ついには参議となります。百人一首でおなじみの参議篁の名前はここから来ているのですね。

また、弾正大弼(弾正台の次官)にもなり、篁の朝廷での仕事の始まりであった弾正台での出世もしているというところが、これもまたすごいことです。
さらには、左大弁、班山城田使長官、勘解由使長官などを兼任するというすごさ。もう、ハードワーカーですね。

しかし、そんな篁にも病魔が襲ってきます。というか、これだけ働けば、そりゃ病気にもなるだろうよ。

病に臥せってしまった篁のことを心配した帝は、篁の屋敷に見舞いの使者を送ったりするなどしたというのですから、どれだけ篁は帝に信頼されていたかということがわかりますよね。普通、帝が部下に対して見舞いなどありえませんよ。

帝からの見舞いなどもありましたが、残念ながら小野篁は51歳という若さで鬼籍に入ってしまいます。

もし、篁が長生きしていたら、藤原良房の独裁政権にはならなかったかもしれませんし、その後の朝廷にも大きな影響を与えていたかもしれません。

そんな小野篁は死後も人気があったようで、小野篁に関する創作小説がいくつか存在しています。

有名なところでは「篁物語」というものがあります。これが発見された当時は、史書だと思われていたのですが、そんなことはなく平安時代後期から鎌倉時代にかけて書かれたとされている物語(小説)です。
主人公は小野篁であり、異母妹との恋物語が書かれたりしています。

また「江談抄」という平安後期の中納言・大江匡房の談話をまとめたものには、小野篁が百鬼夜行を同僚に見せていたとか、ちょっと篁のオカルトチックな話が多数出てきます。
この頃から、篁のオカルトな面がピックアップされていっていたようです。

どちらにせよ、小野篁という人物が多くの人に慕われていたということがよくわかるかと思います。なかなかいないですよ、恋話だったり、オカルト話だったりといった創作のネタにされている貴族の偉い人って。

そんな小野篁を主人公として描いている平安ファンタジー小説「月が消えた夜に――」もついに完結をしました。中編小説ですので気軽に読むことが出来るとおもいます。

もしよろしければ、ご一読いただけるとうれしいです。

「月が消えた夜に――」
https://kakuyomu.jp/works/16818622172539912659
ぜひ、一度読んでみてはいかがでしょうか?


この近況ノートで平安時代を語るシリーズも、今回で最終回。
長きに渡り、読んでいただきありがとうございました。

※近況ノートだと流れていってしまうというご意見もありましたので、どこかのタイミングで書き直して小説の方にまとめたいと考えております。

2件のコメント

  • 最終回、お疲れ様でした。
    なんだかんだ、最後まで読み切ってしまいました……。
    それにしても、大隅先生のこの知識の深さには驚かされるばかりです。
    私、下調べがとっても苦手なので、こういう史実をベースした物語とか書けないので、尊敬します!
    というか、これらの歴史的事実とか全部頭に入っていて、この企画とかもスラスラ書いてたりするんですかね。
    だとしたら、もう頭の構造が違うということでスパッと諦めます。
    私には絶対無理!
    そして大隅さん、凄すぎます!
  • 月井さん、
    お読みいただきありがとうございます。

    私の場合は調べ物が好きなんです。なにか興味を持つととことん調べてしまったりします。

    歴史ものはある程度その時代の出来事がわかってしまうとレールが敷かれた感じになるので逆にプロットいらずで楽なのかもしれません。
    なので歴史ものを書く時は、プロットの代わりに歴史の本を見ながら書いていたりしますね。
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