著:黒井 望
荒野に風が吹き荒れ、砂塵が薄暗い空に舞い上がっていた。
遠くで雷鳴が轟き、灰色の雲が不穏にうねっている。
この世界では、ビーム兵器が全てだった。
高エネルギー光線が戦場を支配し、敵を一瞬で焼き尽くすその威力は、戦争技術の頂点とされていた。
実弾兵器なんて、過去の遺物か、時代遅れの狂人の玩具でしかない。
――そう、誰もが信じていた。
だが、ロンだけは違った。
彼の操る人型兵器「アイアン・クロウ」は、全高12メートルの鋼鉄の巨体だ。
流麗なデザインのビーム搭載機とは異なり、角張った装甲と無骨なシルエットが特徴だった。
武装は両腕の大口径機関砲と肩のロケットランチャーのみ。
エネルギーコアもビームジェネレーターも搭載していない、実弾オンリーの旧式機。
コックピット内で、ロンは無表情に計器を睨み、風向きと敵の位置を計算していた。
「目標、確認。距離3000メートル。最新型ビーム搭載機『ヘヴンズレイン』か……。
天国の雨とは大仰な名前だな」
声に感情はない。ただ事実を述べるのみ。
その眼光は、鋼のように冷たかった。
敵機『ヘヴンズレイン』が姿を現した瞬間、荒野に閃光が走った。
ビームキャノンが唸りを上げ、青白い光線がアイアン・クロウを狙って放たれる。
音速を超える速度。回避不能とも言われる攻撃。
だが、ロンは動かなかった。
「来るぞ」
彼は左腕を僅かに動かす。
次の瞬間、ビームがアイアン・クロウの左肩を掠め、装甲が赤熱した。
爆風が機体を揺らし、警告音が鳴り響く。
「熱量は想定内。装甲厚がものを言う」
彼は淡々と呟き、照準を修正する。
『ヘヴンズレイン』の通信が割り込んだ。
モニターに映る敵パイロットは嘲るような笑みを浮かべていた。
「おいおい、実弾機だと? こんなガラクタで俺に勝てると思ってるのか? お前、正気かよ?」
ロンは応えない。
ただ、無言でトリガーを引いた。
機関砲が火を噴き、徹甲弾が轟音と共に敵へ殺到する。
だが、『ヘヴンズレイン』は軽やかに跳躍し、ビームシールドで全弾を弾き返した。
「実弾なんて時代遅れだよ! ビームの前じゃただのゴミだ!」
再び光線が走る。ロンは機体を傾け、ギリギリで回避した。
地面が熱で溶け、ガラスのように固まる。
右足の装甲が歪んだ。
「エネルギー効率がいいのは認めるよ」
ロンは呟き、敵の動きを追う。
『ヘヴンズレイン』の機動性は圧倒的だった。
――だが、彼は知っていた。
それこそが相手の弱点だということを。
「次はお前が動く番だ」
ロンは静かにロケットランチャーを構えた。
(続)