エルドリア王立総合学園。
魔術学部図書館の奥には、吹き抜けの天窓から日が差し込む小さなホールがある。
古紙と埃の匂いが色濃いそこは、古文書や禁書が集められたエリアであり、生徒は滅多にやってこない。書籍の閲覧や学習等に使える机にも、利用者はほとんどいない。
そのホールからも死角になっている机に人影があった。
古今東西の論文や古文書。高度な魔導書に教科書。積み上げられた本に囲まれているのは、小柄な少女だった。
邪魔にならない程度に緩くまとめた、月光に緑を溶かしたような白緑。古びた眼鏡を通した薄茶色の瞳は、懸命に書籍の文字を追っている。
ブラウスの下にはぴったりとしたハイネックのインナーを着込んでいるが、標準サイズの制服は少々大きいらしく、ジャケットの袖口が手首を隠している。
少女は自分の頭より大きな革表紙の本を両手で取り上げ、ページを開く。
「第8層の解呪がこうだから……ええと。その発想は 違う。解釈が……」
少しぎこちないエルドリア語に東方の言語が混じる。
難解な術式を解読する独り言が、古書の山に積もっていく。
ずれた眼鏡を押し上げ、彼女は手元の理論に集中してページをめくり続ける。
□ ■ □
ノアは図書館を訪れていた。
閲覧申請を出した本の中に禁帯出のものがあり、閲覧室以外での参照が許可が出なかったからだ。司書がそう言うのなら従う他ない。ノアは素直に図書館へと足を運んだ。
だと言うのに、自分を呼び出した当の司書は離席中だった。
やれやれと静かに息をつき、ノアは書架を見て回ることにした。
学生時代に読み漁った事を思い出しながら、書架の間を歩く。
適当に本を取り、捲る。誰かが借りた形跡があった。タイトルを再度確認して棚に戻し、次の書架へ歩き――ふと、視線を奥へ向けた。
その先には大きな机がある。それは、利用者が居ないのをいい事に、学生時代のノアが誰にも邪魔されずに没頭するため占有していた「特等席」だった。
そもそもこの区画を訪れる生徒は少ない。その奥にある机の存在すら知らない生徒がほとんどだろう。
そんな机に、誰かが居た。
珍しい光景に、ノアは思わず足を止めた。
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おまけ。
次の冒頭イメージスケッチ。
東方は天瑛領からやってきた少女と、ノアの話。
リフィも情報をくれます。だって彼は彼女の――おっと。