「……終わった」
いろんな意味で終わった。
肉は全部食べた。六合は炊いてあったご飯も消えた。
買ってきた酒瓶は全部空けた。
給料祝い兼およねさんバースデーパーティーはつつがなく終わった。
みんなたくさん食べて、飲んで、おしゃべりして、笑って笑って、それは楽しいパーティーではあった。
だが同時に。
「消えた……僕たちの生活費がたった一晩で……」
消えた生活費は食材となり、今はこの人たちの膨らんだ胃の中に納まっている。
それはそれでショックではあったのだけれど、つむぎさんとお客さんが喜んでくれたことがなにより大事なことだった。
もちろん僕もつむぎさんもたくさん食べた。
「今日の焼肉、すっごくおいしかったよね」
うず高く積まれたパックの中には黒毛和牛ロースとか特選和牛厚切りカルビとか、国産厚切りタン塩とか高級品が巧妙に紛れていた。
普段だったら絶対買わないチョイス。これがまた、すっごくおいしかったのだ。
「わたしお肉選ぶの自信がなくて迷っていたら、スーパーでおよねさんに会ったんです。事情を話したら一緒に選んでくれるって言われて。そしたらおよねさん今日が誕生日だからって聞いてお誘いしたんです」
うれしそうに報告してくれるつむぎさん。
およねさん、かなりの目利きらしい。たしかにどれも美味しかった。
それもこれで食べたことないようなおいしい肉ばかりだった。
「そしたらあきこ姉(ねぇ)がちょうど来て、お祝いならお酒が必要って言われて、お酒は全部あきこ姉に頼んだんです。わたしあまりお酒を飲まないので」
「お酒もどれも美味しかったよね、料理にぴったりだったよ。どれもこれも、つむぎさんのおかげだね!」
「むふぅ」
つむぎさんはほっぺたを赤くして、満足した赤ちゃんみたいな自慢げな吐息を漏らす。
どうやらつむぎさんも少し酔ったみたい。
そんな姿がまたかわいい。
「……でも、お金いっぱい使っちゃいましたね……ごめんなさい」
「いや、良いんだよ。お金ってのは使うためにあるんだからさ」
「でもそんな風にしてたら貯金もできませんよね。やっぱりあたしが貧乏神だから……」
む。つむぎさん、また自分を責めようとしている。
「それは違うよ。今日のつむぎさんはたくさんの幸せを運んでくれたよ。見なよ、あきこさんはよだれ垂らして幸せそうだし、およねさんもお腹をあんなに膨らませているし、ボクはこんなにおいしい焼肉は初めてだった」
「クリリンもすごい勢いで食べてましたね」
「そうそう。この幸せな時間はキミが運んできたものだよ、幸せってのはお金では買えないものなんだよ」
「あきらさん、優しいな……」
そういうと僕の首に手をかけ、上目遣いにじっと熱い視線を向けてくる。
上気した頬、少しうるんだ瞳、それから目を閉じ、スッと唇を寄せてくる。
「つむぎさん……」
うん。この瞬間のために大金を払ったようなものだ!
神様ありがとうございます! いや、貧乏神様、ありがとうございます!
僕も彼女の背中に手をまわし、そっと体を引き寄せる。
「やっとチッスかの?」
耳元に聞こえたその一言でサッと酔いもさめる。
忘れていたけど平九郎爺さんだった。
それも二人の顔のすぐ近く。
それから皺だらけの顔にさらに皺を寄せてニンマリと笑った。
「続きが楽しみじゃのう、ささっ遠慮なくどーぞ」
二人の甘い酔いが瞬時に覚めてしまったのは言うまでもない。