【軍師同盟】の曹丕と甄夫人は不仲なのですが、
【軍師同盟】の甄夫人は本当に美しい女性なのですけれど、
確かに「なんか美しさ意外に特筆したものがあんの?」と聞かれたら実は首を傾げる人です。
非常に性格が良く、曹丕に逆らったりせず、義母にも尽くし、側室の郭照のことも苛めず、貞淑で聡明な女性なのですが、世渡りする術を知らず、したりもせず、不器用な所がある女性です。
つまり完璧すぎるのですよね。女性として。
だからこそ個性的な人が多い【軍師同盟】で甄夫人は非常に最後まで印象薄いんですよ。
美しくて出て来た時は存在感あるんですが、必ず曹丕とかと揉めてます。
子供もいて性格も容姿もいいのになんでそんな揉めんねん! もっと上手く立ち回らんかい!😇 とエールを投げたくなる女性なのですが、
この女性は最後史実通り、
曹丕の不興を買い過ぎて「服毒」を命じられて死ぬことになります。
曹丕と上手く行ってないので、心の支えが息子の曹叡だけでした。
このまま自分が生きていて、曹丕に憎まれ続けると、息子の曹叡まで憎悪され、位を奪われたり命を奪われたりしかねない……自分は死ぬから、息子だけは生かして欲しい。そういう母親の覚悟で最後死んで行きます。
甄宓が最後、
曹丕に死を命じられて「分かりました」と去っていく時、
甄宓が最後に曹丕に掛ける言葉があります。
「曹子桓。生まれ変わっても、二度と会いたくないわ」
彼女は静かに微笑み、そう告げて去って行った後、部屋で服毒し、死にます。
このセリフ。
非常に【軍師同盟】の甄宓の口にした言葉の中では、敬語を排除し、率直に彼女が一人の女性として素直に心を曝け出したもので、浮かび上がって印象的に聞こえるのですが……。
同時に少し私はモヤッとします。
本当に率直なのです。
自分を冷遇し続けた男に対して、最後に言った言葉。
罵りでもなく、静かに運命を受け入れて微笑む感じも素敵ですし。
私がモヤモヤするのは「こんな言葉言えるなら、もっとなんで早くこういう面を曹丕に対して出さなかったんだ」という部分なんだと思います。
いいセリフで、
いいシーンなんですが、
こんなこと言えんならもっと早く言っとけや、と思わんでもないのです。
しかし甄夫人はとても聡明で思慮深い女性だったので、当時の貴族の女性の常識が「夫に口答えなどしない」でしたので、あくまでもその理想を守り、曹丕の前では完璧な人間を演じ続けていたのでしょう。
曹丕からすると、自分はこんなに欠点だらけで、父親にも憎まれているのに、妻は非の打ち所のない女というのが余計コンプレックスになり、素直になれなかったのかもしれません。
こういうの考えると、ある意味【軍師同盟】の甄夫人は強すぎた女性なのかもなと思います。
人間弱さを曝け出すのも、強さなのです。
人間は人の弱さを、愛しいと思ったり、弱さを相手が見せてくれるとこちらも少し心を解いて、弱さを曝け出したり出来ることがあります。
最後もやつかないためには、
このシーン好きなのですけどある意味、
美しく一礼して、捨て台詞とか無かった方が、完璧な甄夫人像を描けたのかなと。
甄夫人が曹丕を「曹子桓」と呼び捨てにするのもこの一度だけです(子桓と呼ぶことはたまにある)
「二度と出会いたくない」
も、彼女のすっきりとした美貌に騙されて一瞬爽やかに聞こえますが、非常に恨みの籠った言葉だと思います。
最後まで完璧な甄夫人を描くならば、
嘘でもいいから「さよなら」とか「息子をお願いします」とか最後まで自分を完璧に取り繕う言葉で全然良かった気がします。
最後に一人の女性としての率直な感想を口にしたことで、
それを口にできる勇気があるならもっと曹丕と胸倉掴み合いの喧嘩とか夫婦でしとけよと私的には思ったのですが、
甄夫人と言えども「最後は言うこと言わないと気が済まへんかったか」のセリフなんですわ。
だって死ぬのは自分の息子だけは守る為なんだから捨て台詞で曹丕激怒させたらその怒りが息子に向かう可能性あるしな 得策ではない
でもこれ、
創作において「いい悪い」ではない領域の話。
こういうのが実は一番創作において、作品の質を左右し、作品を見るポイントになる部分。
こういう所に拘れる人は「読む力」が非常に高いと思います。
こういう所に拘ると、自分の作品でももしこの先甄夫人のような女性が現われた時、自分でどうするか? を考えられるじゃないですか。
【軍師同盟】の甄夫人の最後のセリフ。
聞いた時に、最後の最後にようやく出た一人の女性の本音。
それをいいなと思ったのか。
最後の最後にそれを言えるなら、もっと本音で曹丕にぶつかっていればよかったのにと悔いに思うのかは作者の自由な受け取りです。
自分の作品ではどっちを選ぶのか。
別の表現方法があるのか。
そういうのも創作に対しての一つの糧になりますよね。
ドラマとかではこういう糧が幾つも手に入ります。
私はどっちかというと、印象的ではあるが【軍師同盟】の甄夫人らしくない最後のセリフだなーと思うので、そんなに好みではないですね。悪くないけど、やはりそれが言えるなら何故……の方が多い。素敵な女性だったからこそ、なんで曹丕とあんなに拗れたんやと釈然としない部分があります。
そんな釈然としなかった私は、別に夫と不仲とかではないですが「服毒死」する女性を書いてる話があります。
それが【ジグラート】の、メインキャラではないのですが、第一部において深く関わって来る女性、ヴェネト王国貴族の【レイファ・シャルタナ】という女性です。
彼はヴェネトの闇に暗躍するドラクマの妹。
兄は犯罪に手を染めていますが、複雑な家庭に育ち、兄には非常に可愛がられていたため「この世で兄が一番大事。犯罪者でもいい。最後まで兄妹で仲良く生きて行く」と決めている女性。
彼女自身に悪心はほぼなく、普段はヴェネト貴族として慈善事業などもしながら暮らしていますが、兄のどうしようもない衝動から来る犯罪の尻ぬぐいの為なら、人も殺すし、死体を隠したりも出来る女性です。
兄への愛情が一番大事。
第一部の終盤ドラクマは犯罪が明らかになり、逃げ場が無くなり追い詰められて自殺します。
レイファはヴェネト王妃に捕まり、共謀者として尋問を受けますが、兄の犯罪に関わることについて彼女は一切口を開きませんでした。
怒ったヴェネト王妃が服毒を命じ、
レイファは抗うことなくこれを受けて死亡します。
この展開は決まっているし作中にもこの顛末になることはもう書いているのですけど、時系列としてはそこにまだ至っていません。
だけどこの時レイファには世に対してや王妃に対しての恨み言を、何一つ言わないままにさせたいなって私は強く思っています。
それが彼女の強さかと。
今なんか「世界が兄を追い詰めたんだ」とか「兄を殺しやがって」とか泣きわめくなら、止めていればよかったと思いませんか?
彼女はもう破滅まで兄とともに歩くと決めた女性です。
来るべき時が来た。
その時まで最高に人生を楽しんで、
一番大切だった兄がもう死んでこの世にいない。
彼女は全ての目的を達したのです。
だったらそこに【捨て台詞】などいらない。
私はそう思うんですよね。
彼女の死について私はもう作中で顛末として書きました。
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朝に服毒して、その夜に眠るように死んでいるのを確認されたと、当時の近衛団長イアン・エルスバトが本国に送った報告書によって記録されている。
国への憂いや、兄の無罪への訴え、王妃への恨み。
何の言葉も残さなかったという。
三十五歳の若い死だった。
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彼女のこの死はこれから訪れます。
その死の階段を登って行く道中、レイファの言動には「全ての目的を達し、悔いは無い」と読み手に伝わるような書き方をしたいと考えています。
上記の文で分かるように、
レイファが死んだ時にそれを立場上見届けたのがスペイン艦隊総司令のイアンです。
実はこのレイファの死を見届け、彼女が「死に抗わなかった」姿を見せたことで、この二人ほぼ作中は関りが特にない二人なのですけど、死の際のやり取りが鮮烈だったことで、レイファの死がイアンの人生を大きく揺れ動かすきっかけになります。
そういうの凄く好き。
「絆やかかわりの深い人たちが影響を及ぼし合う」
これは創作の基本ですけど、
現実世界ってそれだけとは限りませんよね。
赤の他人が場合によってものすご影響及ぼすこともある。
時には人生や、命を左右するほどに。
つまり人間の運命を動かすのは心や絆だけではないのです。
運命は、全く無関係の他人が動かすことすらある。
それが運命の恐ろしい所で……物語的にはたまらなく魅力的な所でもある。
私の好きなパターンの一つです。
【無関係の人間が運命の歯車を回す】。
勿論、絆ある人たちが動かすのも魅力的ですけど。
こういうのは作者の中に何個あってもいいのです。
アイディアの種というのは創作者にとって攻撃の弾丸みたいなもの。
何発持ってようとあればあるだけ色んな状況で応戦が出来ます。
AIに頼るといずれ創作者としての死に至ると私が言っているのは、
AIに依存すると、己の銃弾が他人頼りになるぞという部分なのです。
真の作家は、戦うための銃弾は自分の内から生成します。
世界を自分の目で見て、感じて、そういう知識や実感が、世界と戦うアイディアという銃弾になる。
こういうタイプは供給源が絶たれることは永遠にありません。
自分の中にアイディアが生まれなくなったらそれがその人の終着点なのです。
ただそれだけのこと。
当然のこと。
受け入れて、抗うことでは無いと思います。
【無関係の人間が運命の歯車を回す】パターンは私は好きで、
【花天月地】でもそのような話を書きました。
第58話で賈詡と郭嘉が生と死について語るシーンがあります。
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「……。不思議なものだね」
「ん?」
「発端は韓遂の暗殺だ。韓遂と徐庶には今まで何の繋がりも縁も無いのに、韓遂の死が引き起こした反動で徐庶が死ぬかもしれない。あの二人の死は結びついているんだ。生は全く繋がっていなかったのに。
――自分の死は誰と結びついているんだろうって、考えたりしない?」
賈詡は難しい顔をした。
「俺はあんまりそういう小難しいこと考えるのは好かん。結局韓遂と徐庶の死が結びついたって偶然じゃねえか。偶然のことばっかり気を取られたら、論理的な思考が健全に回らなくなるだろ」
「そうかな。私は結構こういうの楽しいけど」
「あんたは今、何もかもが楽しいお年頃だ」
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私は郭嘉様同様、生は全く結びついていなかったのに、死が偶然結びついたり作用したりしているって不思議だなーと思うのでそういうことが起きると非常に興味湧きます。もちろんいいことばかりではないですけどね。多層的な意味でです。
こういうのも勿論私がそういうものに興味を持っていないと出て来なかったセリフだと思います。
でもそれが世界の全てじゃない。
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「俺は誰と誰の死が結びついてるかとかはあんま興味ないな。
――それより俺はこう思うけど。
ただ、人間それぞれの死は違うって」
雨の闇を見つめていた郭嘉が初めて、隣に立つ賈詡を見た。
「俺が死なせた典韋殿の死は、曹孟徳の生に繋がっていた。
袁家を曹操が攻めなければ、甄宓殿は曹丕殿と出会わず、曹叡は生まれて来なかったし。
あんたが死の底から蘇らなけりゃ……」
「なに?」
「涼州騎馬隊の連中はもっと楽に死ねたかも」
郭嘉が鶸色の瞳を輝かせた後、吹き出して、優しい声を出し笑った。
「酷いこと言うなあ」
酷いこと、と言いながらも郭嘉は賈詡のその言い方を気に入ったらしい。
郭嘉は前髪から伝った雨粒を指先でそっと避けた。
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と、賈詡が否定する形で別の考えもあるよねって提示している。
このあたりは前に書いた「キャラが作者の完全な分身ってわけじゃない」っていう部分だと思います。
書き手の中には一つの意見とか好みとか考え方である必要無くて、
色々な考え方や捉え方やその理解があった方がいい。
そういうのを描ける人の方が、様々なキャラを作品に出せると思います。
私はキャラの書き分けとか、大人数のキャラも魅力的に書く能力非常に高いので、多くの場合、多くの意見や考えを全く否定してません。大概自分はそう考えなくとも「あるよねー」って大らかに受け止めますので、そういうのが多くのキャラを丁寧に書き分けながらも魅力的に書けるコツなのかなと。