「白瀬先輩。どうして人間は、アダムと蛇のカップリングから生まれなかったのでしょうか」
初めて会ったとき、美織ちゃんは心から不思議そうな目をしてそういっていた。
彼女はいつも、定期的に良くわからないものに興奮して報告してくる。
この間は、擬人化したバターとマーガリンの確執について一通り妄想を語られた。
雑音を嫌う私にとっては、非常にレアな友達。
最近のマイブームは、同級生同士の絡みらしい。
「今日なんて、事件ですよ事件。あの遠にゃんが起きてたんですよ。しかも、遠にゃんがたーくんに初絡み。映えますねえ」
ペラペラと口を回しながら、同じくらいに鉛筆を動かす。
万人受けはしないが、彼女の才能は大切にされるべきものだ。
好きを形にするスピードと精度は、簡単に身に付けられるものではない。
美織ちゃんのクロッキー帳には、すでに同級生二人の姿が写し出されている。
『遠にゃん』は知らなかったけど、『たーくん』はちょっと気になっている後輩だった。
「ねえ、美織ちゃん。せっかくだから、その絵を完成させてプレゼントしてみたら?今の推しなんでしょ、この子達」
「ないないない。私は壁のシミなんです。喋ったこともないし、キモがられたら死んじゃいます」
「だからいいのに」
「……悪いとこ、出てますよ」
「ごめん」
ちょっと調子に乗りすぎた。
「白瀬先輩って、変な人ですよね。みんなの憧れなのに、私みたいなのしか近くに置かないんですもん」
変な人。この子に言われるのか。
思わず、笑いがこぼれる。
「それこそ、壁のシミみたいなものだから」
「壁のシミと壁の花を履き違えないでください。たまに嫉妬されて大変なんですよー」
私は、友達を選ぶタイプだ。仲良くなれそうな子しか、側に置きたくない。
お高く止まっているなんて、自分が一部で陰口を叩かれているのも知っている。
それを負け犬の遠吠えと思えるように、最低限の見てくれは整えておこうと心掛けている。そういうところも、敵方は気に入らないのだろう。
「白瀬先輩って、好きな人とかいないんですか?」
「前に紹介したでしょ、私のカレシのゼタくん。静かで、聞き上手で、面倒見が良い男の子」
「……前に見せてもらった、熊のぬいぐるみですよね?」
「カレシだよ。生まれたときから、私の性格の悪さも浮気も全部許してくれる、素敵な人」
私ののろけに対して、美織ちゃんは自分のことを棚にあげて複雑そうな顔をした。
「知ってますよ。たーくんも他のみんなも、ひそかに先輩を狙ってる。それを先輩も気づいてて、良い感じにもてあそんでる」
「かわいいよね。そういう火遊びを許してくれる、ゼタくんも素敵」
「先輩は、私みたいな変態と違うのに……。私と違って、選ぶ権利があるのに」
「美織ちゃんの好きは、妥協なの?選ぶ権利があったら、やめちゃうの?」
「…わかんないです。先輩みたいにモテたら、リアルに走ってたかも」
「そうしてたら、私達は友達になれなかったね」
私は、負け犬をみるのが好き。
ひとりぼっちで浮いてる子や、落ち込んですがってくる人が好き。
美織ちゃんが自分の才能に気づいたら、世界に受け入れられ始めたら。
きっと、もうこんな風に話したくはなくなる。
「あんまり私をいじめたら、今度のネタにしますからね。絵の具とカップリングさせて、そのカンバスに閉じ込めてやります」
口を尖らせる美織ちゃんは、いつもかわいそうでかわいい。