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ストーカー小ネタ:フレンドシック

ボクは子どものころ、自分がアニメの登場人物だと信じていました。
お姫様や主人公じゃなく、そのとなりで笑っている友達。

めんどくさい主人公の世話を焼く、かっこいい友達の魂が乗り移って、ボクという主人公の体になったと信じていました。

……そのアニメキャラの名前?
言ったら、絶対引きますよ。

ええ、ええ、いいでしょう。
クレナちゃんって言うんですよ。これで満足ですか?

***

ボクは、スレンダーで健康的な美脚に憧れていました。
アイドルやモデルさんなんかは、本当にアニメの世界から飛び出して来たみたいで、見てると元気がもらえます。

だけど、ボクの背は伸びず、ずんぐりむっくりになってしまいました。
ダンスには胸は邪魔です。デブって言われるのがいやだからお腹周りは気を付けているのですが、ふにふにはまったく取れません。

お兄ちゃんはボクを猫っ可愛がりしてきますが、ぬいぐるみかなにかと勘違いしている節があります。
クラスの男子に比べればそこそこイケメンだから許してあげますが、汚くしてたら絶対撫でさせてあげません。

パパやママや友達からもかわいい、かわいいっていわれるのは嬉しかったけど。
本当はお姫さまやマスコットよりも、あのアニメの友達キャラのようにかっこいい女の子になりたかったです。

だからせめて、彼女のあの特徴的な口調だけは、絶対に守りたいと思っています。

***

ボクはなにも変わっていません。
小さいころから、なにも。
だけど、周りは変わってしまうし、ボクにも変わることを求めてきます。

小学校の授業で「私」って言ったとき、スッゴク気持ち悪くなりました。どうしても、無理でした。
ママには叱られたのですが、どうしてもこの喋り方を変えられませんでした。

男の子に混じってはしゃぎ回るのが好きでしたけど、いつからかみんな照れるようになってしまいました。
バレンタインにそわそわされたり、女の子からひそひそ「変な子」って笑われたり。

いえいえ、いけません。
かっこいい女の子は、そんなことでへこたれたりしないのです。

そのうちみんなボクに根負けし、受け入れてくれる味方も増えました。
「将来どうするの?」ってよく聞かれますが、ボクが大人になる頃にはちゃんと受け入れられるような仕事も増えると信じています。

***

中学校のときに出会った鷺森クレナは、ボクが欲しかったものを全部持ってるように見えました。

ボクは強がっていましたが、結局味方がいなければ心細くて泣きそうです。
クレナは、誰と一緒にいてもいまいち深入りしたりしません。愛想笑いとかも、ほとんどしない。

こんな女の子から見たら、ボクなんて作り物の弱虫に見えちゃうんじゃないか。
クレナに見下されてると勘違いしたのは、そんな焼きもちからかもしれません。

だけど話してみたら、すごくかわいい女の子でした。
なにより、主人公みたいだなって。

へこたれかけていたボクの中の、ワクワク心が芽生えました。
こんなに不器用でかわいい主人公を見つけてしまったら、友達キャラとしては応援せざるを得ないのです。

***

男女の友情というのは、なんと儚いものでしょうか。

元々ボクは、男の子と話す方が楽しかったんです。
女子の複雑怪奇な人間模様より、ずっとさっぱりして気持ちよかった。

でも、ボクに仲良く話しかけてくれる男の子は、しばらくするとすぐに二人になろうとします。
みんなで賑やかにするのが好きなボクからしたら、面倒なことこの上ないです。

二人きりが落ち着く子もたまにいました。
でも、クレナみたいに自然体で可愛がってくれるのとは少し違います。

あわよくば、みたいな視線。
お兄ちゃんがふざけてなで回してくるときの目線を、100倍気持ち悪くしたようなあの感じ。

それを感じたときには、ほとぼりが冷めるまで別のグループに紛れて遊びます。
優しく歓迎してくれる人が多いのですが、そこでもそのうちなにやら空気が生ぬるくなってしまうのです。
ボクはただ、みんなと仲良くしたいだけなのですが。

「雫ちゃんは、誰のためにそんなことをしてるの?」
ボクが告白されて振った男子のことを好きだった女の子から、にらむように言われました。

「そんなことって、なんです?」
「変な喋り方で目立って、男の子とくっついて、かわいくおしゃれして媚びて。みんなを誘惑して、楽しいの?」

「よくわかりませんが、ボクはボクを好きでいたいだけです。誰しも、そうなのではないですか?」

はたかれました。
バカなボクにはわかりませんが、その子は人に好かれたいから自分をかわいく着飾っていたそうです。

確かに一人は寂しいです。
友達がいないと苦しいです。

でも、周りが自分のことをどう見てるかばかり気にしてたら、結局周りのこともちゃんと見れなくなるのではないでしょうか。

◇◇◇

「コビットちゃん、こっちこっち」
沢沼さんが、彼氏を紹介してくれるとのことです。
ボクに、媚びてるホビットちゃんことコビットなんて変なあだ名をつけてきた人です。

初対面でずいぶんな態度を取ってきたくせに、ずいぶんと気に入られてしまっています。
ややこしい性格をしていますが、彼女の健康的なスタイルだけは眼福です。クレナと並ぶと、なかなか絵になります。

「ごめんねー。適度に自慢してなきゃ、やっぱり不安でさ」
「ボクの買い物を手伝ってくれるというなら、断る理由はありません。男手は頼りになりますし」

「あー、あんたがコビットさんか。悪い、こういう界隈はよくわかんねーんだ」
沢沼さんの彼氏、泉くん。
話に聞いてたとおり、がっしりしてますね。

「はじめまして、お噂はかねがね。だけど、ボクの名前は雫です。コビット呼ばわりはやめてください」

「女子を下の名前で呼ぶのもあれだろ」
「雫は名字ですから、お気になさらず。それでは、戦場に向かいましょうか」

***

泉くんとボクは、まったくもって話が噛み合いませんでした。
スポーツマンとアイドルオタクでは仕方がないのかもしれません。

沢沼さんが間を取り持ってくれてましたが、彼女がトイレに立つとなんとも言えない沈黙が覆いました。
なにがしたかったのでしょう。

「……その、今日はありがとうございます。ボクだけじゃ持てない荷物とか、場所取りとか」
「全然。トレーニングに比べれば、軽いもんよ。どこにそんな金があるのかとは思うけど」

「自慢じゃないけど、ボクの家ってお金持ちですからね」
「それ、自慢じゃね?」
「そうですか?」
「あんたも鷺森や沢沼の友達だけあって、どっかずれてんな」

泉くんは、沢沼さんが認めるのがわかるくらい感じのいい男の子です。
なんだか、お兄ちゃんを一段階ヤボったくして、筋トレマニアにしたみたいな感じ。

「木陰のやつ、うまくやってるかね」
「あちらもデートでしたっけ。クレナは水族館を気に入っていたようですが、あまりストーカーを図に乗らせると新しい場所を開拓する気概がなくなります」

「あんたのそういうとこ、鷺森の友達っぽいな。木陰から聞く印象だけどよ」
「クレナは結構、企画をするのは苦手ですからね。しかもバカップル状態ですから、ストーカーが決めたことならなんでもうなずきそうです」

「そういうもんか。なあ、雫さん」
ずい、と顔を詰められ、思わず引きます。
「な、なんですか」
「木陰のこと、ストーカー呼びしないでやってくんねーか」

「ストーカーはストーカーでしょう」
「まあ、そうなんだけどよ。鷺森の親友のあんたがそういう態度だと、あいつらもいつまでもあのわけわかんねえ関係を続けそうだから。それってなんか、見てて気持ち悪くね?」

ふむ。
この男、雑だけど。

「ご忠告、感謝します。ボクからの質問なのですが」
「おう」
「沢沼さんは確かに美人ですが、泉くんはもっと健全な女の子を狙いに行くつもりはないのですか?」

「はあ?」
「あ、言い方が不健全でしたね。ボクとしては、あなたは沢沼さんとかクレナとか、ええと……奴、とか。そんなめんどくさい人間よりも、もっとさっぱりした関係が似合う気がします。差し出がましい話ですが」
「ほんとにな」

「失礼しました。そもそも、なぜ奴とあなたのような光属性が友達になれたのでしょう」
「光属性?よくわかんねーけど、あれだ。あいつ、根性あるから。つーか、あんたも人のこといえねーぞ?」
「ほえ?」
「十分めんどくせーってこと」

「……返す言葉もありません」
「悪い。いじめてるみたいになった」
「いえ、ボクの中の評価はうなぎ登りですよ。今のところ、お兄ちゃんとパパに次ぐ三番手です。甘やかされることが多いので、こういう感じは嬉しいです」

「お、おう。よくわからんけど」
「沢沼さんは、いい人を捕まえましたねぇ」

泉くんは、居心地悪そうにほほを掻いていました。
それをほほえましく見守っていると。

「……コビットちゃーん?」
おとと。
「人の彼氏をあんまり誘惑しないでくれるかな。節操ないんだから」
めんどくさ女王様のご帰還ですか。
もう少し、お話ししたかったのですが。

「で、泉くん。どうかな? この子」
「あん?」
「コビットちゃん、かわいいでしょ?」
ふむ。
どうやら、沢沼さんなりの忠誠心のテストだったようですね。
どおりで帰りが遅いはずです。

「めんどくせえ」
「それは、私もだよ?」
「いや、この空間が」
「えー。逃げないでよ」
「……雫さんよ。ちょいと後で話せるか? で、だ」

がしりと、泉くんが沢沼さんの肩を抱きます。
「沢沼、体調は大丈夫か? 疲れてきたし、そろそろ帰るぞ」
「ご、ごまかさないでよ。後で話すってなに?私に聞かせられない話なのかな」
「恥ずかしいから聞かせたくねえ」

……たすけて。
こんな甘ったるい空間、ボクには毒です。

***

泉くんの相談は、想像通りでした。

彼は彼で不安なこと。
ストーカーに対する沢沼さんの「推し」の感覚は、自分に対する好意とどう違うのかよくわからないこと。

自分は全然、ましな男になれていると思えないこと。

《雫さんは、光属性がどうとか言ってくれたけどよ。俺からしたら、お前らが闇すぎて見えねーんだ。ずーっと、沢沼から試されてるように見える。直し方がわかんねえし、直せるもんかもわかんねえ。あんたなら少しはわかるんじゃねーか? めんどくさい同士》

《同じ扱いは心外ですが……そうですねぇ。友達としては、仲良しなんですよね?》
《沢沼を友達としてみたことはねえ。つーか、友達なら付き合いたいってなんねーだろ》

うおお。
素晴らしいじゃないですか。

《たとえば、ボクは泉くんの友達ですよね?》
《まだそんなにしらねーけど、そうだな》
《その違いって、なんですか?》

《やっぱあんためんどくせーな。好きだからにきまってんだろ。人と比べたりしねーよ》

《かっこいいですねぇ。なら、素直にそう伝えてあげればいかがです?》
《そうしてるぞ?》

《なら、それ以上気にすることはありません》
ボクは、この男の子のファンになりつつありました。

《沢沼さんは、薊矢木陰から卒業する、といったそうです。あなたはそれを信じて、ただ横にいてあげてください》

《それで、足りんのか?》

《あとは彼女の問題ですから。彼女が一番ほしいものを、前にクレナとあの男から聞いたことがあります。好意と、安心です。言ってしまえば、甘えているだけですよ》

《わっかんねーな。結局、俺にはどうしようもないってか》

《強いて言えば、運動と包容力以外のステータスにも振ってみては? 男の子の頑張る姿って、眩しいです。泉くんはなんだか、本来突っ走るタイプなのにエネルギーをもて余している感じがします》

《……あー、当たりかも》

《決まりですね。なにをするかはお任せですが、沢沼さんを大事にしながら一段階レベルアップしていきましょう。お困りごとがあれば、ボクも協力します》

《ありがとよ。後は自分で考えるわ》

《もし、それで失敗したとしても。泉くんは、一人じゃないです》

《ま、木陰を取っつかまえて愚痴るとすっか。あいつの話を聞いてばっかだったしな》

ええ、それでいいです。
ボクに告白してくる友達もどきも、このくらいさっぱりしてればいいのに。

《泉くんを推す人は、ちゃんといますよ》

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